話題は追っているが、いま何が論点?――「論点の地図」は、その月のニュースレターの内容を見取り図として整理する保存版です。主要な論点/構図/経緯/注目点をコンパクトに押さえます。(文責:編集部)


目次

【1】4-5月の核心
【2】4-5月の記事(7本)
【3】4-5月の要旨
【4】主要な論点
 論点① 成果物と能力の乖離
 論点② 効率化と学習プロセスの価値
 論点③ 学びの主体性とオーナーシップ
 論点④ 教育評価の再設計
 論点⑤ 教育と社会の新たな関係
【5】誰が何を求めているか
【6】前提となる流れ
【7】注目
【8】用語


【1】4-5月の核心

AI時代の教育の本質的な課題は、「AIを使うか否か」ではなく、次の4点にある。

 ① 成果物と能力の対応関係が崩れる中で、学びをどう定義するか

 ② 理解や定着につながる学習プロセスを、どこまでAIに委ねるか

 ③ AIとの協働の中で、学びの主体性やオーナーシップをどう保つか

 ④ 成果中心の評価から、思考・理解・学習過程を重視する評価へ転換できるか


【2】4-5月の記事(7本)

[2026/4/4]レポートでは能力を測れない時代?
☝🏼 AIによって成果物と能力の対応関係が崩れ、「学び」の定義そのものが問われている。

学びにAIをどこまで使うか(1)――レポートでは能力を測れない時代?
「学びに“AI” どこまでアリ? ためになる使い方は」――NHKのサタデーウオッチ9(2026年3月28日放送)では、卒論に生成AIを活用する学生の事例を手がかりに、AIと学びの関係が特集されました。この特集に高等教育におけるAI活用の専門家の立場から関わった飯吉先生に、番組の見どころと、AI時代に大学教育が直面する根本問題についてお聞きしました。 https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015086711000 AIは、学習や研究を大きく効率化する一方で、「それは本当に学びなのか」「成果物から能力を判断できるのか」という問いも突きつけています。いま問われているのは、AIを使うか使わないかではなく、AIが前提となった時代に、学び・教育の目的をどう組み直すのかです。(編集部) 目次 * AI時代に何を「学び」と呼ぶのか * 成果物では能力を測れない? * 学習者も「何が自分の力なのか」が分かりにくい AI時代に何を「学び」と呼ぶのか ――今回のNHKの番組では、卒論に生成AIを活用する学生の事例が取り上げられていました。AIによ

[2026/4/11]理解に至るまでの「プロセス」の大切さ
☝🏼 学びの本質は結果ではなく過程にある。AIによる効率化は、その価値を見えにくくする。

学びにAIをどこまで使うか(2)――理解に至るまでの「プロセス」の大切さ
生成AIは、レポートや課題の作成を効率化する一方で、理解に至るまでのプロセスを省いてしまう面もあります。今回は、学びにとってそのプロセスがどのような意味を持つのかについて、飯吉先生にうかがいます。(編集部) 目次 * 学びの本質は「結果」ではなく「途中」にある * プロセスに時間をかけることの意味 学びの本質は「結果」ではなく「途中」にある ――学びでは理解を深め、知識を定着させる「プロセス」が重要だというお話でした。AIを活用すれば、レポートといった成果物を効率的に作れる時代にあって、プロセスはどのような意味を持つのでしょうか。 飯吉 学びにおけるプロセスは、単なる手順(プロトコル)ではありません。それ自体が価値を持っています。むしろ、学びの本質はこの過程にあると言ってもよいでしょう。 例えば、難しい論文を読むとき、最初からすんなり理解できることはほとんどありません。何度も読み返し、分からない概念を調べ、他の文献と照らし合わせながら、自分なりに意味を組み立てていく。その中で誤解や行き詰まりを経験しながら、徐々に理解に近づいていくわけです。 この一連の過程を通じて

[2026/4/18]AIは道具?それとも思考を委ねる相手?
☝🏼 AIは単なる「壁打ち相手」ではなく、思考を方向づけてしまう存在にもなりうる。

学びにAIをどこまで使うか(3)――AIは道具?それとも思考を委ねる相手?
レポートや論文を書くとき、生成AIとの対話はしばしば「壁打ち」と表現されます。けれども、この比喩は実態を正確に言い表してはいません。AIはただ反応を繰り返すだけでなく、ときに提案し、方向づける存在でもあるからです。今回は、AIとのやり取りの中で起こりうる「主体の逆転」について考えます。(編集部) 目次 * 壁打ち? それともピッチングマシン? * 学びのオーナーシップとは何か * 思考過程の主体性を取り戻すには 壁打ち? それともピッチングマシン? ――NHKの番組(「学びに“AI” どこまでアリ?ためになる使い方は」サタデーウオッチ9、2026年3月28日放送)では、生成AIに自分の考えを入力し、それを整理していくことを「壁打ち」という表現していました。この点をどうお考ですか。 飯吉 この「壁打ち」という比喩は、生成AIの利用方法としてよく使われますが、実は誤解を招きやすいと思います。AIの性質を、必ずしも正確には捉えていないからです。 本来、壁打ちは、自分が打ったボールがそのまま返ってくる行為です。壁は何かを判断したり、新しいものを付け加えたりしません。あくま

[2026/4/27]理解を深め、記憶に残すための「認知的負荷」
☝🏼 深い理解や定着には、試行錯誤や認知的負荷を伴う学習経験が不可欠である。

学びにAIをどこまで使うか(4)――理解を深め、記憶に残すための「認知的負荷」
生成AIは、短時間で答えにたどり着く手段を与えてくれます。しかし、速く答えを得ることが、そのまま深い理解につながるとは限らない。それが自分の知識として残るとも限らない。ここでは、学びにおける「認知的負荷」の意味を考えます。(編集部) 目次 * 速く分かることは、本当に理解したことなのか * ジープ・ウェイとエア・ウェイ * 理解は修正の積み重ねで深まる * AIを使いながら理解を深めるには 速く分かることは、本当に理解したことなのか ――NHKの番組(「学びに“AI” どこまでアリ?ためになる使い方は」サタデーウオッチ9、2026年3月28日放送)では、AIによる効率化が、理解や記憶に影響する可能性が指摘されていました。この点についてはどのようにお考えでしょうか。 アメリカの研究機関が2025年に発表した、生成AIによる人間の脳への影響を調べた論文によると、18歳から39歳の合わせて54人を対象に、ChatGPTを使ってエッセイを書いたグループと、自力で書いたグループなどの脳波を測定し、書いたあとの記憶を尋ねました。 すると、ChatGPTの利用者は83.3%

[2026/5/13]AI時代の「自分の言葉」とは何か
☝🏼 AIとの協働によって、言葉や概念を「理解していること」と「使えてしまうこと」の境界が曖昧になる。

学びにAIをどこまで使うか(5)――AI時代の「自分の言葉」とは何か
生成AIは文書作成を支援します。しかし、そのとき「これは自分の言葉だ」とどこまで言えるのでしょうか。AIを介した知識の所有と責任の所在に注目し、「学びのオーナーシップ」とは何かを問い直します。(編集部) 目次 * 理解していない言葉は「自分のもの」と言えるか * 出典のない知識は、誰の責任に帰属するのか * 「責任」ということの中身 理解していない言葉は「自分のもの」と言えるか ――NHKの番組(「学びに“AI” どこまでアリ? ためになる使い方は」サタデーウオッチ9、2026年3月28日放送)では、明治大学の川嶋周一教授がゼミ生に対し、「AIを使おうとも、最終的に書いた言葉は自分で責任を持つこと」と話されていました。この点については、どのようにお考えでしょうか。 飯吉 理念としては非常に重要で、教育の現場で共有されるべき原則だと思います。ただ、実際にはかなり複雑な問題を含んでいます。 まず重要なのは、「理解」と「所有」の関係です。AIの出力には、自分が十分に理解していない内容が含まれることがあります。文章としては自然で説得力があり、全体としても整っているため、そ

[2026/5/23]大学が評価し、学びとして測るもの
☝🏼 AI時代には成果物だけでなく、思考や理解のプロセスそのものが評価対象になる。

学びにAIをどこまで使うか(6)――大学が評価し、学びとして測るもの
生成AIの普及によって、「良い成果=高い能力」という前提が崩れ始めています。レポートや論文の質だけでは、学習者がどこまで理解し、どのように考えたのかを判断しにくくなっているからです。今回は、この変化を踏まえ、大学教育は何を評価し、何を「学び」として測るべきなのかを考えます。 目次 * 「何を評価するのか」を見直す * 教育の再設計の第一歩は「何を残すか」を決めること 「何を評価するのか」を見直す ――AIの活用によって、どこまでが本当に自分の理解で、どこからがAIに支えられた成果なのかが見えにくくなる中で、大学教育の評価制度はどのように成り立つのでしょうか。 飯吉 現在の評価制度は、その前提が崩れつつあります。これまでは、レポートや論文といった成果物を見れば、理解や思考力をある程度推測できました。しかし、AIの登場によって短時間で一定水準のアウトプットが出せるようになり、「良い成果=高い能力」という関係が成立しにくくなっています。 その結果、同じような成果物でも、そこに至る過程は大きく異なる可能性があります。自力で試行錯誤したのか、AIを使って効率的にまとめたのか

[2026/5/30]教育と社会の関係をどう再設計するか
☝🏼 AIによって成果が得やすくなった今こそ、教育は人間の思考と主体性を育む役割を再確認する必要がある。

学びにAIをどこまで使うか(7)――教育と社会の関係をどう再設計するか
教育は「プロセス」を重視し、社会は「成果」を求める――この関係は長く両立してきました。しかし、AIの普及によってプロセスを経なくても一定の成果を出せるようになり、その前提が揺らいでいます。今回は、AI時代における教育と社会の関係、そして教育が果たすべき役割を考えます。 目次 * 「成果」を求める社会、「プロセス」を重視する教育 * AI時代に教育が守るべきものとは 「成果」を求める社会、「プロセス」を重視する教育 ――教育では「プロセス」が大事なのは分かります。ただ、社会、特にビジネスの世界では、それよりも「成果」が求められます。この関係はどう考えればよいでしょうか。 飯吉 教育と社会では、もともと重視するものが異なります。社会では一般的には短時間で成果を出すことが評価されます。一方、教育では、どのように考え、試行錯誤し、何を学んだのかというプロセスにも価値が置かれてきました。 これまでは、教育で培った力が時間をかけて社会で成果として現れることで、両者はつながっていました。しかし、AIの普及によってプロセスを十分に経なくても一定の成果を出せるようになり、この関係が揺

【3】4-5月の要旨

「学びにAIをどこまで使うか(1)~(7)」では、生成AIの普及によって「学び」の前提がどのように変化しているのかを、多角的に検討しました。