話題は追っているが、いま何が論点?――「論点の地図」は、その月のニュースレターの内容を見取り図として整理する保存版です。主要な論点/構図/経緯/注目点をコンパクトに押さえます。(文責:編集部)


目次

【1】今回の核心
【2】今回の記事(9本)
【3】今回の要旨
【4】主要な論点
 論点① 仕事と人材育成の入口が変わる
 論点② 大学は「知識を教える場」から変われるか
 論点③ 学位と能力認証をどう組み替えるか
 論点④ 人間ならではの価値をどう捉えるか
 論点⑤ 学びの主体は個人へ移るのか
【5】誰が何を求めているか
【6】前提となる流れ
【7】注目
【8】用語


【1】今回の核心

AI時代に問われているのは、大学でAIをどう使うかだけではない。仕事、大学、学位、能力、そして「なぜ学ぶのか」という社会の前提そのものが変わろうとしています。

核心となるのは、次の5点です。

① AIによって専門職や若者の「最初の仕事」が代替されていくと、人はいかに経験を積み、成長するのか

② AIが知識の検索・整理・分析を担う時代に、大学は学生にどのような学びや経験を提供すべきか

③ AI時代、一度取得する学位だけでなく、変化に応じて学び続け、その能力を示す仕組みが必要になるのではないか

④ AIが「最善」を示せる時代に、人間にしか生み出せない価値とは何か

⑤ 学ぶ選択肢が増えるほど重要になる「何を、なぜ、どう学ぶか」を、誰が決めるのか


【2】今回の記事(9本)

[2026/6/13]AIが奪うのは「最初の仕事」かもしれない
☝🏼 専門職だけでなく、若者が経験を積むエントリーレベルの仕事にもAIの影響が及び始めている。

AIが奪うのは「最初の仕事」かもしれない――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(1)
専門知識を身につければ安定した職業に就ける――大学は長らくその前提の上に成り立ってきました。しかし、生成AIはその前提そのものを揺るがし始めています。専門職でさえAIの影響を強く受けるようになり、若者が経験を積むための「最初の仕事」も失われるかもしれません。AI時代、大学・仕事・社会はどのように変わっていくのでしょうか。 目次 * 専門知識だけでは安心できない時代へ * AIが奪うのは「最初の仕事」かもしれない * 「大学に行く意味」が問われ始めている 専門知識だけでは安心できない時代へ ――生成AIをめぐる大学界の議論が活発になっています。2026年5月開催の高等教育学会でも、「AI時代における高等教育の未来像を描く」という課題研究セッションが行われ、ご登壇されておられました。いま、どのような論点があるのでしょうか。 飯吉 私の基本的な問題意識は、AIを前提とした社会のなかで、高等教育は何を担うべきなのか、学びや大学の役割をどう再定義するのか、ということです。 ただ一筋縄ではいかないのは、AIの進化に伴って、私たちが向き合うべき状況は刻々と変化しているというこ

[2026/6/20]「知識を得る」より「つくる経験」の価値が高まる?
☝🏼 AIが知識処理を担うほど、実際に手を動かし、人と協働して何かをつくる経験の意味が大きくなる。

「知識を得る」より「つくる経験」の価値が高まる?――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(2)
AIによって知識の価値が変わりつつあるなかで、大学教育も転換を迫られています。働きながら学ぶ時代に、大学は何を教えるべきなのでしょうか。今回は、「知識を得る」よりも「つくる経験」の価値が高まるという可能性について考えます。 目次 * 学びながら学位を取得する時代へ * 「知識を得る」より「つくる経験」の価値が高まる * 大学は「つくる経験」を提供できるのか 学びながら学位を取得する時代へ ――大学進学と職業との結びつきが弱まるとすれば、大学そのもののあり方も変わっていくのでしょうか。 飯吉 私は、その可能性はかなり高いと思っています。 少し乱暴な言い方かもしれませんが、これからの大学は「贅沢な教育」になっていくかもしれません。現在のように、4年間フルタイムで大学に通い、キャンパスで学び続けるという形は、むしろ一部の人たちの選択肢になっていく可能性があります。 大学に4年間通うというのは、本来かなり高コストの選択です。学費だけでなく、生活費や時間も必要になります。これまでは、その投資に見合うだけの職業的な見返りが期待できたため、多くの人が大学進学を選択してきました

[2026/6/27]学びを小さく認証するマイクロクレデンシャル
☝🏼 必要な知識や技能を柔軟に学べる一方、細分化された学びをどう体系として組み立てるかが課題になる。

学びを小さく認証するマイクロクレデンシャル――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(3)
AI時代には、知識や技能を必要に応じて学び続けることが重要になります。そのなかで注目されているのが、学びを小さなまとまりで認証する「マイクロクレデンシャル」です。しかし、学びを細分化するだけで本当に十分なのでしょうか。今回は、マイクロクレデンシャルとNQF(National Qualifications Framework)を手がかりに、これからの学びの仕組みについて考えます。 目次 * 学びを小さく認証する仕組み * 学位の「中身」を見える化するNQF 学びを小さく認証する仕組み ――前回は、AIの進化に大学改革のスピードが追いつけるのかが課題だというお話でした。もし大学の変化が追いつかないとすると、別の学びの仕組みが重要になってくるのでしょうか。 飯吉 その可能性はあります。近年、注目を集めているのが、マイクロクレデンシャルです。 従来の大学教育は、通常は4年間でまとまったカリキュラムを履修し、その成果として学位を取得する仕組みでした。一方、マイクロクレデンシャルは、より小さく細分化された学修のまとまりごとに、習得した知識・能力を認証していくという仕組みです。

[2026/7/4]NQFは大学をどう変えるのか
☝🏼 学位や資格の中身を可視化する共通基盤は、学びの通用性だけでなく大学改革にも影響を与える可能性がある。

NQFは大学をどう変えるのか――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(4)
前回は、マイクロクレデンシャルとナショナル・クオリフィケーション・フレームワーク(National Qualifications Framework:NQF)が、AI時代の新しい学習を支えるための仕組みになり得ることを概説しました。では、それらは実際に高等教育をどのように変えていくのでしょうか。今回は、世界の動向を手がかりに、日本の大学改革との関わりを考えます。 目次 * 学位を小さく切り出す時代へ * 世界にはマイクロクレデンシャルやNQF活用の二つのアプローチがある * NQFは大学改革の切り札になるのか * NQFは大学再編の基準になるのか 学位を小さく切り出す時代へ ――これまで、マイクロクレデンシャルとNQFが学びを支える仕組みだというお話でした。この二つは、具体的にはどのように結び付くのでしょうか。 飯吉 まず、マイクロクレデンシャルを用いると、既存の学位プログラムを小さく切り出すことができます。 大学の授業を一科目ごとに細かく切るというよりも、複数の科目をまとめて、一つの知識や技能のまとまりとして認証するイメージです。 その際に、NQFが整備され

[2026/7/11]学位は何を証明するのか
☝🏼 「大学を卒業した」という大きな認証から、実際に何ができるのかを継続的に示す方向へ変化しつつある。

学位は何を証明するのか――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(5)
AI時代には、大学卒業が学びの終わりではなくなります。必要な知識や技能を学び続け、その成果を積み重ねることが求められるようになるからです。こうした変化は、学位そのものの意味にも影響を与えます。今回は、社会人の学び直しを支えるマイクロクレデンシャルとNQF(National Qualifications Framework)を手がかりに、AI時代に学位は何を証明するのかを考えます。 目次 * 社会人の学び直しを支える仕組み * AI時代に学位は何を証明するのか 社会人の学び直しを支える仕組み ――マイクロクレデンシャルは、今後の高等教育政策の中でも重要なテーマになっていくのでしょうか。 飯吉 その可能性は高いと思います。背景にあるのは、社会人の学び直しと既存の学位プログラムの限界です。AIの進化によって仕事の内容が変わり、新しい知識や技能を継続的に身につける必要が高まっています。 しかし、日本では社会人があらためて大学で学び、学位を取得するという文化や支援制度は、まだそれほど定着していません。仕事を続けながら学ぶこと自体が難しいですし、フルタイムの学位プログラムに入る

[2026/7/18]人間ならではの能力とは何か
☝🏼 創造性やコミュニケーション能力は、単独の資格ではなく、具体的な活動の中で評価する必要がある。

人間ならではの能力とは何か――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(6)
AIの進化によって、学位だけでは能力を十分に示しにくくなり、マイクロクレデンシャルやNQF(National Qualifications Framework)による新たな認証の仕組みが注目されるようになってきました。しかし、そこで新たな課題が浮かび上がります。それは、「人間ならではの能力」をどのように定義し、評価するのかという問題です。今回は、この問いを手がかりに、AI時代に大学教育が育てるべき力について考えます。 目次 * 創造性やコミュニケーション能力は評価できるのか * 人文社会系のゆくえ * 編集者はAIに代替されるのか 創造性やコミュニケーション能力は評価できるのか ――では、AIに代替されにくい能力とは何なのでしょうか。 飯吉 よく挙げられるのは、創造性やコミュニケーション能力などです。 創造性であれば、これまでにない問いを立てたり、新しい発想を生み出したりする力です。一方、コミュニケーション能力であれば、多様な立場の人と協働しながら判断し、物事を前に進める力などを指します。 とはいえ、問題は、それをどう評価するかです。たとえば、プログラミングなら

[2026/7/25]「教育を受ければ上へ行ける」は続くのか
☝🏼 高等教育が安定した職業や収入につながるという社会モデルが揺らぎ、大学や大学教員のあり方にも変化が及んでいる。

「教育を受ければ上へ行ける」は続くのか――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(7)
前回は、AI時代に「人間ならではの能力」をどのように育て、評価するのかについて考えました。しかし、その能力を育てる大学そのものも、いま大きな転換点を迎えています。AIの進展や少子化によって、大学経営、大学進学、そして大学教員のあり方まで変わろうとしています。今回は、「教育を受ければ上へ行ける」という社会モデルを巡り、大学と社会のこれからを考えます。 目次 * 大学は「いまの形」を維持できるのか * 「教育を受ければ上へ行ける」は続くのか * 人生の成功モデルは変わるのか * 大学という組織も変わっていく * 「大学教員」から「発信する知識人」へ 大学は「いまの形」を維持できるのか ――前回は、人文社会系には経済的な価値だけでは測れない役割がある一方、その価値を社会にどう示すかが課題になるというお話でした。AIの進展や少子化が進む中で、大学そのものも大きく変わっていくのでしょうか。 飯吉 大学は大きな転換点にあると思います。とりわけ日本の大学については、いまの形をそのまま維持していくのは難しいのではないでしょうか。 理工系や医療系であれば、研究資金を獲得しやすく

[2026/8/1]AIの先で、人間は何を学ぶのか
☝🏼 AIが最適な答えを示せるからこそ、「面白い」「知りたい」という人間の内発的な動機が重要になる。

AIの先で、人間は何を学ぶのか――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(8)
AIが最適な答えを示せるようになったとき、人間は何を学ぶのでしょうか。今回は将棋の世界を手がかりに、AIには生み出しにくい「面白さ」と、学ぶことそのものの価値について考えます。 AIが示す「最善」と、人間が生み出す「面白さ」 ――AIによって仕事が変わり、大学も変わらざるを得ない。一方で、AIそのものは数か月単位で急速に進化しています。大学が対応を進める頃には、技術はさらに先へ進んでいます。 飯吉 そうですね。AIの変化に大学が追いつこうとするだけでは、どうしても後手に回ります。そこで考える必要があるのは、AIに合わせて教育を変えることだけではなく、AIが進化する時代に、人間は何を学ぶのかということです。 その点で興味深いのが、将棋の世界です。 現在では、棋士がAIを使って研究することが当たり前になっています。観戦する側も、AIの評価値や予想手を見ながら対局を楽しむようになりました。 そうした中で、藤井聡太さんが「完璧さから離れたものの価値」について語っていたことが、とても示唆的だと思いました。 藤井聡太の変化 「完璧な将棋」を捨てて手にした「完全な勝利」:朝日新聞新

[2026/8/8]自らの学びを設計する力
☝🏼 学習資源が豊富になるほど、自分に必要な学びを選び、体系として組み立てる力が問われる。

自らの学びを設計する力――AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(9)
AIが知識を整理し、必要な情報へ瞬時にアクセスできる時代になりました。学ぶための環境は、これまでになく豊かになっています。しかし、その一方で新たな課題も生まれています。豊富な学習資源の中から何を選び、どのように学びを組み立てるのか。今回は、AI時代の「学びの設計」について考えます。 目次 * 学びに設計図はあるのか * AIは教育を豊かにするのか * AIは知識を均質化するのか 学びに設計図はあるのか ――今回、マイクロクレデンシャルやNQF(National Qualifications Framework)の話も興味深かったです。 飯吉 もともとMOOC(大規模公開オンライン講座)が登場した2010年代前半の頃は、現在のような展開まで予想していた人は少なかったと思います。 しかしながら、急速にAI時代に突入した現在から振り返ってみると、マイクロクレデンシャルやNQFのような仕組みが持つ意味が、むしろ以前よりはっきり見えてきたように思うのです。 マイクロクレデンシャルは、知識や技能を小さな単位で認証し、それを積み上げながら学び続けるための仕組みです。 こう

【3】今回の要旨

「AI時代、大学・仕事・社会はどう変わるのか(1)~(9)」は、AIによる仕事の変化から出発し、大学、学位、人間の能力、そして学ぶこと自体の意味へと議論を広げました。