生成AIは、短時間で答えにたどり着く手段を与えてくれます。しかし、速く答えを得ることが、そのまま深い理解につながるとは限らない。それが自分の知識として残るとも限らない。ここでは、学びにおける「認知的負荷」の意味を考えます。(編集部)
目次
- 速く分かることは、本当に理解したことなのか
- ジープ・ウェイとエア・ウェイ
- 理解は修正の積み重ねで深まる
- AIを使いながら理解を深めるには
速く分かることは、本当に理解したことなのか
――NHKの番組(「学びに“AI” どこまでアリ?ためになる使い方は」サタデーウオッチ9、2026年3月28日放送)では、AIによる効率化が、理解や記憶に影響する可能性が指摘されていました。この点についてはどのようにお考えでしょうか。
アメリカの研究機関が2025年に発表した、生成AIによる人間の脳への影響を調べた論文によると、18歳から39歳の合わせて54人を対象に、ChatGPTを使ってエッセイを書いたグループと、自力で書いたグループなどの脳波を測定し、書いたあとの記憶を尋ねました。
すると、ChatGPTの利用者は83.3%が書いた内容を正確に思い出せなかったのに対し、自力で書いた人は11.1%にとどまり、大きな差がみられたのです。
(「学びに“AI” どこまでアリ?ためになる使い方は」サタデーウオッチ9、2026年3月28日放送、https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015086711000)
飯吉 ここで重要なのは、情報に触れることと、それを自分の中で理解し、あとで使える形で残すことは別だという点です。ただ情報を受け取っただけでは、それを自分の知識として身につけたことには必ずしもなりません。
その間に介在しているのが、「認知的負荷」です。自分で考え、試行錯誤し、間違いを修正していく過程を通じて、内容の意味や関係が見えてくる。そうして理解が深まることで、はじめてその内容が記憶にも残りやすくなります。
ジープ・ウェイとエア・ウェイ
飯吉 この違いは、「ジープ・ウェイ」と「エア・ウェイ」という比喩を使って説明すると分かりやすいと思います。
戦後、GHQが新憲法案を提示した際、当時の吉田茂首相の側近だった白洲次郎は、「アメリカから押し付けられた憲法では、日本人は民主主義を理解できない。そうしたエア・ウェイ(空路)ではなく、自分たちで試行錯誤しながらオフロードをジグザグ進むジープ・ウェイ(陸路)を経てこそ、理解が深まり定着する」とアメリカ側に対して主張したというエピソードがあります。
ジープ・ウェイは、でこぼこした道を時間をかけて進むルートです。途中で立ち止まったり、引き返したりしながら、少しずつ前に進んでいく。一方、エア・ウェイは、目的地まで一気に到達するルートです。最短時間で効率よく移動できます。
AIに関しては、このエア・ウェイのような使い方をする場合も多いと思います。必要な情報や論点の整理を、ほぼ完成形に近いかたちで提示してくれるため、短時間で「答え」にたどり着けます。ただし、その過程で省かれやすいのが、そこに至るまでの思考の紆余曲折や積み重ねです。
ジープ・ウェイでは、道の起伏や分岐、行き止まりを経験しながら、時には迷いながら進みます。学びに置き換えれば、文脈を読み取り、概念同士の関係を考え、細部の違いに注意を向ける過程です。試行錯誤もしつつ、その中で、「なぜそうなるのか」という道筋が見えてきます。