話題は追っているが、結局いま何が論点?――「論点の地図」は、その月のニュースレターの内容を1枚の見取り図として整理する保存版です。主要な論点/構図/経緯/いま注目する点などをコンパクトに押さえます。必要なときに戻ってご参照できます。(文責:編集部)


目次

【1】9月の核心
【2】9月の記事(3本)
【3】9月の要旨
【4】9月の論点
 論点① 格差は「なくす」だけでなく「越える」——オープン教育の発想
 論点② 「機会」が開くほど別の格差が生まれる——“やる気しだい”問題
 論点③ コロナ禍は「突然の格差」を可視化した——デジタル環境と家計
 論点④ 「格差」か「選択肢」か——制度設計で意味が変わる
【5】構図
【6】前提となる流れ
【7】注目
【8】用語


【1】9月の核心

テクノロジーを教育現場に「導入する」だけでは、格差は消えません。オープンエデュケーションが開いた可能性と、コロナ禍が突きつけた現実、さらにAI時代の新課題をつなげて見ると、これから必要なのは「学びを支える仕組み」の再設計だと見えてきます。


【2】9月の記事(3本)

[2025/9/13]ニュースレター開始のごあいさつ
☝🏼教育×テクノロジーの「3つの波」(PC/インターネット/AI)を踏まえ、生成AIは“代替”ではなく学びを強化するパートナーとして捉える方針を示す。

ニュースレター開始のごあいさつ
皆さん、初めまして。飯吉透と申します。現在、京都大学で特に高等教育における教育イノベーション、オープンエデュケーション、教育工学に取り組んでいます。今回は自己紹介ということで、これまで自分の歩みと今後このニュースレターで発信していきたい思いなどをお伝えできればと思います。 私は日本の大学・大学院で教育工学を学んだ後、アメリカへ渡って教授システム学(Instructional Systems)の博士号を取得しました。その後もアメリカに留まり教育研究財団や大学などで働いた後、約15年前に日本に帰国しました。 私は学生時代から今に至るまで、新しいテクノロジーを活用して人がどのように学び、どのような教育・学習環境によってより自由でオープンな学びを支えることができるのかに興味を持ってきました。とりわけ、個々人に合ったいわば「カスタマイズされた学び」をどのように実現させられるかということに関心があります。 テクノロジーと教育の分野の3つの波 自分が教育の分野で取り組んできたことも併せて振り返れば、これまで大きな波が3回ありました。 まず、1970年代にパーソナルコンピュータが誕生し、そ

 

[2025/9/20]格差を乗り越える仕組み――学びと教えのイノベーションを展望する(1)
☝🏼オープンエデュケーションは格差を縮め得る一方、格差が越えられた先に「やる気しだい」の新しい格差が生まれうる。

格差を乗り越える仕組み――学びと教えのイノベーションを展望する(1)
この数十年の間に、生成AIを含めて新しいテクノロジーが次々と登場し、さまざまな教育の場で使われるようになってきました。 このような時代には、たんにテクノロジーを教育現場に取り入れるだけでは十分でありません。個人や社会が直面している多様な課題、とりわけ環境の違いによる学習・教育の格差に向き合い、テクノロジーと方法を上手く組み合わせながら、その格差を乗り越えていくことが求められています。 世界と日本における学習・教育の格差の現状を見つつ、これまでのコンピュータを使った歴史も踏まえたうえで、私たちは未来に向けてどう取り組んでいけばよいか。 「学びと教えのイノベーションを展望する」という連載では、この問いに対する重要なポイントについて考えていきます。(編集部) 目次 * オープンエデュケーションという考え方の提唱 * 学生の視点から見た格差の変化 * 「自分しだい」の時代への洞察 オープンエデュケーションという考え方 生成AIをはじめ、新しいテクノロジーやツール、プラットフォームが次々と登場し、さまざまな教育と学習の現場で使われてきています。今後も技術の進歩は絶え間なく

 

[2025/9/27]格差は突然やってくる! ヤァ!ヤァ!ヤァ!――学びと教えのイノベーションを展望する(2)
☝🏼コロナ禍で教育格差が可視化された。日本では世帯収入が機会格差に直結し、米国では多様な授業形態が“格差”というより“選択肢”として機能した面がある。

格差は突然やってくる! ヤァ!ヤァ!ヤァ!――学びと教えのイノベーションを展望する(2)
コロナ禍を契機に、オンライン教育が普及し、新しい学び方が根づきました。しかし一方で、デジタル環境の整備状況や各家庭の経済状況が、教育の格差を顕在化しています。今回は日本と米国の事例を通じて、教育格差の実態を明らかにし、その課題を乗り越えるためのヒントを探ります。第1回「格差を乗り越える仕組み」につづく第2回。 目次 * コロナ禍で浮き彫りになった新たな格差 * データが示す教育機会の格差――日本の事例から * 「格差」か「選択肢」か――アメリカの事例から * 自律的学習の光と影 コロナ禍で浮き彫りになった新たな格差 「ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!」が分かるのは、けっこう年配の方だと思います(僕も実はこの映画は見たことないんですが、ちょっとパロディー風にタイトルに入れてみました)。ここで言いたいのは、たとえばコロナウイルスが突然やってきたことで、急に格差が生まれることもあるということです。コロナ禍では、オンラインで学べる人と学べない人にはっきり格差が出てしまいました。 当時、僕は京都大学の高等教育研究開発推進センター長と教育担当理事補をしていて、すぐ

【3】9月の要旨

新連載「学びと教えのイノベーションを展望する」の導入回では、教育×テクノロジーの変化を「PC→インターネット→AI」という大きな波として整理し、生成AIを“脳の代替”ではなく“学びを応援するパートナー”として位置づけます。

続く連載の第1回は、オープンエデュケーションを「格差がある世界で、それを乗り越える仕組み」として捉え直します。第2回は、コロナ禍という“外部ショック”が格差を突然顕在化させた事実を、日本と米国の事例で検証します。


【4】9月の論点

論点① 格差は「なくす」だけでなく「越える」——オープン教育の発想
教育には格差を縮める力がある一方、すべての格差を短期に解消するのは難しい。だからこそ、格差がある現実の中で、学びの機会をどう設計して“越える力”を広げるかが問われます。

論点② 「機会」が開くほど別の格差が生まれる——“やる気しだい”問題
インターネット等で学ぶ機会が広がると、貧富や地域の障害が薄れる一方で、学びが「意欲(やる気)」に回収されやすくなる。格差の形が変わる点を見落とすと、対策も空回りします。

論点③ コロナ禍は「突然の格差」を可視化した——デジタル環境と家計
オンライン教育の普及は一見前進ですが、デジタル環境の整備状況や世帯収入の差が、そのまま学習機会の差として現れました。学校内にさえ受講機会の格差がある、という指摘が重い。

論点④ 「格差」か「選択肢」か——制度設計で意味が変わる
米国では授業形態の多様性が、学生層や大学特性に応じた“選択肢”として機能した側面があります。多様化が格差になるのか、選択肢になるのかは、支える制度と前提条件で決まります。


【5】構図

関係者状 況
学習者(子ども・大学生・社会人)どこにいても学べる機会が増える一方、環境・家計・意欲の差が成果差として現れやすい。
学校・大学オンライン/ハイブリッド等を整備しつつ、誰も取り残さない支援設計が求められる。
家庭端末・通信・学習環境の差が、機会の差に直結しやすい。
政策(国・自治体)ICT導入を進めながら、格差是正と“自己責任化”の副作用を抑えるルールが要る。
EdTech/プラットフォーム教材・学習機会を広げる推進役になり得るが、アクセスの前提条件(端末・回線等)も左右する。
教員・支援者技術導入だけでなく、学習意欲や伴走支援をどう設計するかが焦点になる。

【6】前提となる流れ

時 期事 項
1970年代〜PCの登場で、コンピュータを使った学びが始まる(第1の波)。
1990年代〜インターネットで教材・知識・機会の共有が進む(第2の波)。
2010年頃オープン教育が「格差を乗り越える仕組み」として語られ、教育の見取り図が更新される。
2020年〜コロナ禍でオンライン学習が急拡大し、同時に新たな格差が顕在化する。
2020年代〜生成AIが日常化し、学びを「拡張するパートナー」として活用する構想が前に出る(第3の波)。

【7】注目

注目❶ 「格差を越える仕組み」は、どこまで機能しているか
教材や機会がオープンになっても、学べる条件(時間・環境・支援)が不足すれば、格差は形を変えて残ります。

注目❷ “やる気しだい”の格差は、どこで生まれるか
アクセス障壁が下がるほど、学びの成否が意欲や自己管理に回収されやすくなり、支援の有無が決定的になります。

注目❸ コロナ禍で露呈した格差は「一時的」か「構造的」か
オンライン化の局面で繰り返し現れるなら、それは偶然ではなく、制度設計の弱点として扱うべきです。

注目❹ AIは「代替」か「学びの強化」か
生成AIを学習の相棒として位置づけられるかどうかで、学びの自由度も、格差の広がり方も変わります。


【8】用語

オープンエデュケーション:教材・ツール・学ぶ機会を開き、共有して学びを広げる考え方。

デジタル・ディバイド:端末・回線・利用スキルの差が、学びの差に直結する状況。

自律的学習:自分で学びを設計・管理する学び方。推進される一方、自己責任化のリスクも論点になる。

「No Student Left Behind」:オンライン化の局面で「学生を一人も取り残さない」ことを掲げるスローガン。


2025年9月号は以上です。次号も、複雑な話題を「論点の地図」として整理してお届けします。(編集部)