専門知識を身につければ安定した職業に就ける――大学は長らくその前提の上に成り立ってきました。しかし、生成AIはその前提そのものを揺るがし始めています。専門職でさえAIの影響を強く受けるようになり、若者が経験を積むための「最初の仕事」も失われるかもしれません。AI時代、大学・仕事・社会はどのように変わっていくのでしょうか。


目次

  • 専門知識だけでは安心できない時代へ
  • AIが奪うのは「最初の仕事」かもしれない
  • 「大学に行く意味」が問われ始めている

専門知識だけでは安心できない時代へ


――生成AIをめぐる大学界の議論が活発になっています。2026年5月開催の高等教育学会でも、「AI時代における高等教育の未来像を描く」という課題研究セッションが行われ、ご登壇されておられました。いま、どのような論点があるのでしょうか。

飯吉 私の基本的な問題意識は、AIを前提とした社会のなかで、高等教育は何を担うべきなのか、学びや大学の役割をどう再定義するのか、ということです。

ただ一筋縄ではいかないのは、AIの進化に伴って、私たちが向き合うべき状況は刻々と変化しているということです。最近よく紹介しているのが、AIが職業に与える影響に関する研究です。

振り返ってみれば2013年に、オックスフォード大学の研究者が「AIやロボットによって将来代替される可能性の高い職業」を分析・予測し、大きな話題になりました( "The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?,")。当時は単純作業や定型業務が中心に自動化されると考えられ、専門職は比較的安全だと見なされていました。

The future of employment: How susceptible are jobs to comput
We examine how susceptible jobs are to computerisation. To assess this, we begin by implementing a novel methodology to estimate the probability of computerisation for 702 detailed occupations, using

ところが、生成AIの登場によってこれまで予測されていた状況は大きく変わりつつあります。近年の調査では、管理職はAIの支援を受けながらも代替されにくいとされている一方で、専門職については代替の可能性が高まっています。

2024年の内閣府の世界経済白書でも、生成AIの影響を強く受ける職種として専門職が挙げられており、「影響が大きく、代替性が高い職業」には、専門的な知識や資格を必要とする職種も含まれています(表「AIの職業への影響」)。また、一部の予測では、専門職の4割程度が、AIの影響が大きく、業務内容の多くがAIによって担われる可能性のある「高影響・代替」の領域に入るとされています(表「AIの職業への影響(職業別)」)。

内閣府「世界経済の潮流  2024年 I-AIで変わる労働市場」より

――10年ほど前に言われていた状況とはかなり違ってきているのですね。

飯吉 そうです。当時は専門職こそAIに置き換えられにくいと考えられていました。しかし、AIの性能向上によって、その予測の根拠が崩れつつあります。

技術職についても同様です。職種による違いはありますが、上記の表では、技術等の半数以上がAIの影響を強く受ける「高影響・代替」の領域に位置づけられています。

大学教育はこれまで、専門知識や専門技能を身につける場として位置づけられてきました。しかし、その専門性に支えられた業務の一部がAIによって担われる可能性が高まりつつあるのです。