石油大国ヴェネズエラは、なぜ貧困と抑圧から抜け出せないのか。トランプ政権の「体制温存」が「資源の呪い」を強める構図を検証する。※今回、途中から有料になります。


目次

  • チャベス主義体制の変質――「21世紀の社会主義」から権威主義体制へ
  • 権威主義体制の政治的利用価値
  • 政治体制を不安定化・抑圧化させる「資源の呪い」

前回、最後に述べたように、「21世紀の社会主義」を目指したチャベス政権は、世界最大と言われる豊かな石油資源に恵まれながら国民が窮乏し続ける「資源の呪い(resource curse)」からヴェネズエラを脱却させるのに失敗しました。米国のヴェネズエラ侵攻とその後の政治的干渉は、この「呪い」の呪縛力をさらに強めています。今回、この点を明らかにし、抑圧的体制の民主化の課題に国際社会はいかに対処すべきかという問題への含意も探ります。

チャベス主義体制の変質――「21世紀の社会主義」から権威主義体制へ

チャベス政権は、1月7日配信記事でも言ったように、石油の富の再分配により国民の支持を当初は広げました。しかし、盤石の政治的・経済的安定性を保持していたわけではありません。CIAの支援を得た2002年の軍部親米派のクーデタの試みは克服したものの、米国の経済制裁強化、経済の社会主義化に伴う不効率や、財界との対立、人材流出などに加え、イラク戦争により上昇した石油価格のその後の下落などで、やがて経済も低迷し、貧困問題の抜本的解消はできませんでした。

チャベスは、国民の間にくすぶり始めた不満や反チャベス主義勢力の抵抗を抑えるために、メディア統制を強化し、憲法改正により大統領任期の無期限化を図るなど、強権政治に傾斜してゆきました。逓減しながらもそれなりにあった石油の富は、反対勢力弾圧の軍資金に、より多く回されるようになりました。

チャベス死後にチャベス主義体制を継承したマドゥロ政権が、2014年石油危機以降の杜撰な経済運営により、経済を破綻させ国民を窮乏に追いやりながら、支配層は汚職利得を享受しつつ反政府勢力を弾圧するというあからさまな抑圧体制へ堕落したことに触れましたが、その萌芽はチャベス時代に既にあったのです。

トランプ政権はマドゥロ政権の圧政からヴェネズエラの民主主義を救済することを軍事侵攻の大義名分の一つにしていますが、それが嘘であること、米国の本音は「マドゥロなきマドゥロ体制」を温存し、最小限の軍事的コストで、ヴェネズエラの石油権益を我が物にする点にあることを、1月17日配信記事で明らかにしました。

この体制の温存をトランプ政権が望む理由は、実は、軍事的コストの最小化だけではありません。民主的体制より権威主義的体制の方が、米国にとっては政治的利用価値があるのです。以下、この点を説明します。

権威主義体制の政治的利用価値

マドゥロ体制はチャベス主義の建前である社会主義の看板は掲げていても、実態は、政府業務までもが金で取引され、国民は窮乏のさなかにあっても政府を頼れず、政府の腐敗や無策を批判すると弾圧されるという点で、「野蛮な資本主義」だと言われています。これは1月7日配信記事で触れた「不在なのに全能な国家」――国民のためには何もしない点で「不在」だが、反対派を監視抑圧して政府権力を保持する能力だけは「全能」な国家のこと――の別名と言っていいでしょう。

トランプ政権はマドゥロの副大統領ロドリゲスにこの抑圧的体制を継承させました。なぜか。米国にとって、このような体制は親米右派政権と実質は同じで、支配層が国民の不満を抑えてでも米国が望むような仕方で石油権益を提供してくれる点で、都合がいいからです。

米国は石油権益確保によって得られた利益をヴェネズエラに分与すると言っていますが、ヴェネズエラ国民全体に利益が広く行き渡るよう十分かつ公正に分与しなくても、支配層にだけうまい汁を吸わせる程度に与えれば、米国が望む権益をこの抑圧的体制が確保してくれる、そういう政治的計算が成り立ちます。

逆に、強い民主的統制に服する政府は、親米右派政権時代と同じように米国に有利な仕方で石油権益を供与しようとしても、国民が「国民全体の利益」としての公益を損なうとして反対するなら、それができないという点で、米国にとっては「不都合な政府」です。2024年大統領選で実際に勝利したゴンサレスやその野党の指導者マチャドに政権移譲させることをトランプ政権が拒否する理由は、チャベス主義勢力の抵抗を抑止するための大規模な軍事的介入を回避することだけでなく、民主的支持が強い野党指導者の政権より、現在の抑圧的体制の下での方が、米国に有利な仕方で石油権益を確保するのが容易だという政治的計算にあると思われます。

トランプは「マチャドは国内で人気がない」などと言っていますが、これは真っ赤な嘘です。マチャドはマドゥロ政権により公職追放処分を受けたために、2024年の大統領選で、無名の元外交官ゴンサレスを代理候補に立てて「二人三脚」で選挙運動したのであり、ゴンサレスが実際に得たと見られる70%の得票率が示す国民の支持はマチャドに向けられたものでした。米国政府も当然この事実を知っています。

マチャドは、チャベス主義者のロドリゲスよりはるかに親米的で、ノーベル平和賞のメダルを譲るなど、卑屈とも思えるほどトランプに秋波を送っています。それなのに、トランプが彼女を斥けるのは、「マチャドが民主的すぎるから」というのが本音でしょう。いくらマチャド個人が親米的でも、彼女の政治力が民意の支持に依存している以上、ヴェネズエラ国民の利益に反すると国民が判断するような仕方で米国に石油権益を供与することはできないのです。

ベネズエラのマチャド氏、ノーベル平和賞メダルをトランプ氏に「贈呈」
ノーベル平和賞を受賞したベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏が15日、ホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した。マチャド氏は会談でトランプ氏にノーベル平和賞のメダルを「贈呈」したと述べた。

最後の点は、先進国が自ら欲する資源に恵まれた途上国の政治体制に対してとる一般的態度に関わり、これは、ヴェネズエラだけでなく天然資源に恵まれた国々によく見られる「資源の呪い」という問題の政治的核心を示しています。以下、この問題を説明します。