前回は、マイクロクレデンシャルとナショナル・クオリフィケーション・フレームワーク(National Qualifications Framework:NQF)が、AI時代の新しい学習を支えるための仕組みになり得ることを概説しました。では、それらは実際に高等教育をどのように変えていくのでしょうか。今回は、世界の動向を手がかりに、日本の大学改革との関わりを考えます。


目次

  • 学位を小さく切り出す時代へ
  • 世界にはマイクロクレデンシャルやNQF活用の二つのアプローチがある
  • NQFは大学改革の切り札になるのか
  • NQFは大学再編の基準になるのか

学位を小さく切り出す時代へ

――これまで、マイクロクレデンシャルとNQFが学びを支える仕組みだというお話でした。この二つは、具体的にはどのように結び付くのでしょうか。

飯吉 まず、マイクロクレデンシャルを用いると、既存の学位プログラムを小さく切り出すことができます。

大学の授業を一科目ごとに細かく切るというよりも、複数の科目をまとめて、一つの知識や技能のまとまりとして認証するイメージです。

その際に、NQFが整備されていると、「このマイクロクレデンシャルは、既存の学位プログラムのどのレベルの知識や技能に相当するのか」を明確にできます。つまり、学位の一部を切り出しても、その価値や位置付けが明確になります。いわば、学位を構成する「部品(パーツ)」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。

しかも、NQFによって互換性が確保されていれば、マイクロクレデンシャルは大学や地域を越えて通用性を有することになります。たとえば、ある大学で取得したマイクロクレデンシャルが、別の大学や別の国でも認められるようになるので、大学や国を越えて学習履歴を積み重ねやすくなります。
従来の学位は大学ごとに設定・授与されてきましたが、マイクロクレデンシャルは大学や国を越えて活用される仕組みへと発展しつつあります。

世界にはマイクロクレデンシャルやNQF活用のアプローチが二つある

飯吉 前回お話ししたように、EUやASEANではNQFをベースに学位や資格の互換化が進められてきました。

世界に目を向けると、マイクロクレデンシャルやNQF活用を巡っては大きく二つのアプローチがあります。

一つは、EUやASEANのようなトップダウン型です。まず大枠としてのNQFの整備・共通化を図り、その上でマイクロクレデンシャルを運用していく。

もう一つはアメリカ型です。アメリカは個々の大学の自主性を非常に重視するため、国家レベルでNQFのような仕組みをつくることには消極的でした。マイクロクレデンシャルについても、大学や民間組織が主体となって自主的にオンライン講座や認証制度を発展させてきました。MOOC(大規模公開オンライン講座)もその流れの一つです。

大学や教育機関が独自に教育プログラムをつくり、学習成果を認証していく。いわば、ボトムアップ型で発展してきたと言えるでしょう。

――日本はどちらに近いのでしょうか。

飯吉 私の見る限り、マイクロクレデンシャルに関しては、日本はどちらの方向性も十分には進められてきませんでした。

日本でもMOOCは盛んになると期待されましたが、アメリカのようには定着しませんでした。一方で、NQFも長らく整備されてこなかった。つまり、アメリカ型もヨーロッパ型も十分に根付かなかったわけです。

ところが近年になって、EUやASEANがNQFとマイクロクレデンシャルを活用しながら高等教育システムを強化している姿が見えてきました。その結果、日本でも危機感が強まり、NQFの整備が本格的に検討されるようになってきたのです。