大学がAIをどう扱うかは、単なるツール導入の問題ではなく、これから学生が向き合うAI社会にどう備えるかという教育の根幹に関わってきます。米国の大学ではすでに、AIを「戦略的優先事項」と位置づけ、学生の学習体験を向上させる視点から活用が進んでいます。今回は、「AI利用の禁止」ではなく「大学の再設計」の発想へと転換する必要性を考察します。
目次
- AI時代に求められる高等教育のミッション
- 米国大学の動向に見る「学生の受益」中心のAI戦略
- 「禁止」ではなく、大学が率先して学びの設計を変える
AI時代に求められる高等教育のミッション
これからの高等教育は、AIが前提となる社会で生活し、その労働市場で働く人を育てるという、難しく厳しいミッションを担わなければなりません。AIには誤情報や偏り、著作権・個人情報、評価の公平性など、扱い方に注意すべき課題が数多くあります。とはいえ、こうした課題への対応も各方面で急速に進んでいる現状を踏まえると、高等教育におけるAI利用は「慎重さ」を保ちながらも、できるだけ前向きに捉えて進めていくべきだと考えます。
一方で、最も避けなければならないのは、大学界が既得権益を守ることを最優先し、AIの教育的利用を軽視したり、踏み込むこと自体をためらったりする姿勢です。
なぜなら、大学でAIを「禁止」や「排除」で処理しても、学生は社会に出た瞬間にAIに囲まれます。大学で学ぶ時間は、むしろ「適切に使えるようになるための訓練期間」と捉える方が、学生の利益にかないます。

米国大学の動向に見る「学生の受益」中心のAI戦略
実際、アメリカの大学協議会EDUCAUSEの調査(2024)(注1)では、参加した約800大学のうち約半数(49%)が「AIを戦略的な優先事項と見なす」ことに「同意」または 「強く同意」すると回答しています。
AI関連の戦略的計画を策定する動機としては、「授業における学生のAI利用の増加」(73%)、「AI技術の不適切な使用のリスク」(68%)、「AI技術の採用で「遅れを取る」懸念」(59%)が上位に挙げられました。
これだけを見ると、多くの大学が「リスク回避」や「後れを取らないこと」といった、ネガティブな結果を避けるために動いているようにも見えます。ところが、AI関連の戦略計画で最も重視されている目標は、「学生の教育体験と学生サービスの向上」(76%)であり、続いて「未来の仕事を担う学生の準備」(64%)、「新しい教育・学習方法の探求」(63%)、「高等教育をより良いものにする」(41%)が挙げられています。さらに自由回答では、「教育機関の運営効率を改善し、公平性・包括性・アクセシビリティなどを推進する」といった目標も示されています。
ここから見えてくるのは、アメリカの大学が慎重さを保ちながらも「学生の受益」を中心に据えて、AIの戦略的活用を進めようとしている姿勢です。
(注1)アカデミックテクノロジーに関するアメリカの大学協議会 EDUCAUSE の調査結果。“2024 EDUCAUSE AI Landscape Study" (https://www.educause.edu/ecar/research-publications/2024/2024-educause-ai-landscape-study/introduction-and-key-findings)