いま、教育の世界には「大学中心」から「学習者中心」へのコペルニクス的転回が求められています。大学や教育の機関をどう拡張するかだけでなく、「学び手そのものの可能性をどう拡張するか」、そして「量としての時間」と「質としての時間」をどう設計し直すか――。その関係を捉え直すことが、新しい教育パラダイムの構築には不可欠だと考えられます。
目次
- コペルニクス的転回の必要性
- 大学(教育)の拡張 vs. 学び手の拡張
- 学びの時間概念―クロノス vs. カイロス
- 学習インセンティブの重要性
- 教育改革から社会変革へ
コペルニクス的転回の必要性
コロナ禍を通じて、教育界は強制的にオンライン・対面・ハイブリッドという複数の手段を、自分たちではコントロール不能な状況に応じて、強制的な使い分けを余儀なくされるという経験をしました。一方で、このような特殊な状況下でなければ、「どの教育・学習の形式が最適か」は一律に決められるべきではなく、個々の学習者のニーズや目的に応じて柔軟に最適な組み合わせを考えることは、これまでにも取り上げた高等教育2.0の観点から重要です。
同時に、AI・VR/AR・IoTなどの技術がもたらす可能性は急速に広がっています。しかし、それらを本当の意味で教育に生かすためには、単に道具として導入するだけでは不十分であり、「教育そのものの前提・目的・あり方を問い直す」という発想の転換が必要です。
16世紀のコペルニクスが天動説から地動説への転換を唱えたように、高等教育においても「大学を中心に据える考え方」から「学習者を中心に据える考え方」への、大きなパラダイムシフトが今求められています。

大学(教育)の拡張 vs. 学び手の拡張
「大学の外側から考える(Think out of the university)」とは、既存の制度や組織の枠組みだけを前提にせず、より広い社会的・歴史的な文脈から教育の意味と役割を捉え直すことだと言えます。
大学の内部から教育改革を考えると、どうしても既存の制度・人員・予算といった制約を前提にせざるを得ません。そのため、抜本的な変革は起こりにくく、「できる範囲の改善」にとどまりがちです。一方で、外部的な視点を取り入れると、「学習者のニーズや経験」を起点に教育のあり方を設計し直すことが可能になります。あとは、その設計に基づいて創意工夫で実現させればいいのです。
従来の教育改革は、主に次のような「教育機関の拡張」によって進められてきました。
- キャンパスや設備の拡充
- 学部・学科や教職員数の増加
- 新しいシステムやデジタル技術の導入
しかし、このアプローチには、経済的制約、人的リソースの限界、技術の陳腐化といった物理的・構造的な制約や限界があります。
これに対して、「学び手そのものを拡張する」という戦略的アプローチがあります。ここでの拡張とは、個々の学習者の次のような力を育てていくことです。