ロシア離れを進めつつあったインドに、トランプは「第二次制裁」として高関税を突きつけた。その結果、インドがロシアに再接近し、ウクライナ戦略を自壊させる事態になった。この事例の分析を通じて「ディールの天才」の盲点を追います。※今回、途中から有料となります。
目次
- インドに対するトランプの「第二次制裁」
- インドはロシア離れとウクライナ寄り姿勢にシフトしつつあった
- インドのロシアへの再接近
インドに対するトランプの「第二次制裁」
米国がロシアに対する直接的な経済制裁を強化する代わりに、ロシアとの緊密な貿易によりロシアに戦争資金を与える国に対して「第二次制裁」を科す、しかも米国の関税戦争の一環たる高関税を制裁にするというトランプの戦略は、論理的に筋違いであるだけでなく、機能的にも自壊的です。それを象徴的に示すのがインドに対する対応です。
インドは単独で中国を抜いてロシア産原油の最大の輸入国ですが、トランプはそれに対して50%の懲罰的関税を課すと言い出して、インドの強い反発を招いている。これは非常に短絡的な判断です。インドは確かにロシアから石油を大量に輸入していますが、特別に「親ロシア」というわけではありません。
インドはグローバルサウスの大国を自任していますが、モディ政権は、きわめて現実主義的な「政治的プラグマティスト」で、欧米に対してもロシアに対しても不即不離のバランスを保ちながら、両者からできるだけ有利な条件を引き出そうとしています。要するに「漁夫の利」を得ようとしている。ウクライナ戦争でロシアが苦境に立たされているのを利用して、大幅に値引きされた価格で石油を調達しているわけで、ロシアから石油を買い叩いていると言ったほうがいい。
インドはロシア離れとウクライナ寄り姿勢にシフトしつつあった
要するに、モディ政権は、親ロシア的というより、ロシアからうまい汁を吸える限りは吸ってやろうという姿勢です。逆に言えば、ロシアからうまい汁が吸えなくなってきたら、いつでもロシアを切る用意がある。実はインドのロシア離れの傾向が見えていました。
インドはロシアから石油を買い叩いていると言いましたが、ロシアべったりではなく、より安い価格を求めて石油の購入先を変動させいる。2024年1月のロシアからの石油輸入額は2023年のピーク時より35%も減少している。
さらに重要なのは武器取引です。インドはロシアからの武器輸入大国でもあり、2019年から2023年までの期間では、ロシアの武器輸出の36%はインド向けでした。しかし、ウクライナ戦争長期化でロシアが自国製武器を輸出ではなく「自家用消費」に回さざるを得なくなり、インドの武器需要を満たせなくなると、ただちにインドは武器調達先を他国に移しつつある。特に高性能武器については米国との共同生産計画を進めている。
実は、ロシア離れに止まらず、インドはチェコやスロバキアを経由してウクライナへの武器支援まで行っていることが報道されました。
モディ首相はロシアと西側・ウクライナの双方に対して不即不離のバランスをとっていると言いましたが、実態としては徐々にウクライナ寄りの姿勢を強めていました。2024年7月にプーチンと会談した直後に、ウクライナを訪問してゼレンスキー大統領とも会談し、自分は「中立」ではなく「平和」の味方だと強調し、戦争で犠牲になったウクライナの子どもたちの慰霊碑を訪れるなど、「ロシアの侵略に抗戦するウクライナに寄り添っている」というメッセージを、かなり意識的に打ち出していたのです。