「自分ならウクライナ戦争をすぐ終わらせられる」と豪語するトランプは、本当に平和をもたらせるのか。ウクライナの譲歩条件、西側と米国の役割、トランプ政権の方針転換を手がかりに、「戦争を止める」とは何かを考えます。


目次

  • ウクライナ戦争終結の必須条件
  • ウクライナに対する西側の「専守防衛」制約の緩和とトランプによる妨害
  • トランプの姑息で自壊的な方針転換

ウクライナ戦争終結の必須条件

ウクライナはロシアの再侵攻を実効的に抑止する安全保障を西側が提供するなら、戦線の現状を一旦凍結し、領土問題を政治的交渉の課題にしてよいという譲歩の姿勢を示してきました。

しかし、ロシアは軍事力でウクライナを我が物にしようとする姿勢を崩していません。したがって、ウクライナ戦争を、持続可能な平和をもたらす形で終結させるには、二つの条件が必須です。

第一に、対露制裁・ウクライナ支援を西側諸国が維持強化し、プーチンに軍事力では目的を実現できないと悟らせること、第二に、ロシアの再侵攻を抑止する安全保障の担保を西側がウクライナに供与することです。この二条件の実現は本来なら国際社会全体の責務ですが、現状では、西側諸国に期待するしかありません。

この持続可能な平和の必須条件を確保する上で決定的に大きな影響力を持つのは米国です。ロシアの脅威に自ら曝されているヨーロッパ諸国は、この条件をよく理解していますが、第二次トランプ政権になってからの米国はそれを全く理解せず、「弱者を強者に屈服させる」方が平和への近道だという近視眼的方針に走っている。

ナチスドイツに対する融和主義が第二次世界大戦に導いた歴史の教訓、すなわち、侵略の褒美を強者に与えることが、武力による現状変更へのインセンティヴを強化させ戦火を拡大させるだけだということが、トランプとその取り巻きたちにはまったく分かっていない。

トランプ政権のウクライナ戦争介入方針は、政権誕生後約1年の間に、ころころ変わりましたが、その根本的な近視眼性は変わっていません。せっかく高まりつつあったロシアへの圧力を潰す真似を繰り返している。今回および続きの回で、このことを整理しておきます。

ウクライナに対する西側の「専守防衛」制約の緩和とトランプによる妨害

2022年侵攻以降、ウクライナへの西側の軍事支援には「自国領内での専守防衛」という制約が長く課されてきましたが、2024年8月にウクライナ軍がロシア国境を越えてクルスク州に進攻し、1000平方キロを超える地域を制圧した時点で、欧米諸国はそれを容認し、この制約は撤回されました。

国際法上、先制攻撃を受けた側の交戦権は、自国領内での迎撃に限定されてはいません。相手国の領土内にある攻撃拠点の軍事基地などを叩くのは正当な自衛権の範囲内です。西側諸国はロシアを刺激して戦争拡大したくないという理由で、ウクライナの正当な自衛権を制約してきた。しかし、ロシアはその結果、図に乗ってかえって侵攻を拡大し続けた。

そこでヨーロッパ諸国も反省し、なかでもイギリスが早くから、専守防衛制約は撤廃すべきだと主張するようになった。米国は慎重でしたが、クルスク州への進攻をきっかけに、当時のバイデン政権は、ロシア固有領土内への攻撃もウクライナの防戦に必要な範囲でという制約をつけながら承認しました。

ところが、このニュースレターの4回目から6回目の「トランプvsゼレンスキー会談」に関する配信で述べたように、2025年2月末にゼレンスキー大統領と「口論」になった際、トランプは逆ギレし、武器支援を一時停止しただけでなく、情報支援までも止めてしまいました。この「情報支援」とは、単なる作戦上のアドバイスではありません。ハイマースなどの精密兵器は、標的の正確な位置などの詳細な情報がなければ、十分な威力を発揮できません。その種のターゲット情報を提供していたのが米軍でした。

この情報が途絶えると、米国から直接、またはヨーロッパ経由で供与された米国製兵器の多くが、事実上十分に使えなくなってしまいます。ロシアによる北朝鮮兵の投入以上に、米国の情報支援の停止はウクライナにとって極めて大きな打撃であり、その間に、せっかく奪取し、ロシアとの停戦交渉のカードになるはずだったクルスク州内のウクライナ制圧地域をロシア軍に奪い返されてしまいました。