トランプはイランとの「一時停戦」の期限を4月22日夜(米国東部時間)と切り、「停戦延長はない、(期限までにイランが折れなければ)爆撃を再開する」と恫喝し続けていましたが、期限満了の前日21日に、またまた「タコ」り、停戦延長を一方的に宣言しました(「タコる」は、「トランプはいつも怖気づいて手を引く」“Trump always chickens out.”を意味する略語TACOから造語した動詞です)。しかも、米国の海峡封鎖(逆封鎖)は続けているのですから、支離滅裂です。トランプは自分が何をしているのか、何をしようとしているのかも分からなくなっているようです。この点を以下考察します。

*今回、途中から有料記事です。


目次

  • 八方塞がりの中で、トランプが打った「その場しのぎのタコ芝居」
  • トランプ語の「停戦」は「封鎖戦」の別名である――「一時停戦」などなかった
  • 「停戦延長」の口実の欺瞞性と自壊性
  • トランプはイランとのチキン・レースを、既に二度負けながら、まだ続けようとしている

八方塞がりの中で、トランプが打った「その場しのぎのタコ芝居」

前回配信記事(4月13日)の最終節(有料部分)で、トランプは以下の点で、「八方塞がり」の窮地に追い込まれていることを指摘しました。

①地上戦による全面戦争は膨大な数の米兵の犠牲を伴い、アフガニスタン戦争やイラク戦争の轍を踏んで戦争を泥沼化させ、トランプ支持のMAGA派も含む米国民の大反発も招くため、軍事的・政治的コストが大きすぎてできない。

②4月7日の「一時停戦」宣言前までのような激しい規模の空爆戦は米国自体の精密兵器損耗の深刻化により、長くは持続できない。

③発電所・海水淡水化プラントなどライフラインを含むイラン民間インフラを壊滅させる「文明破壊」の恫喝は、本当に実行するなら、イランによる親米湾岸諸国に対する同害報復を招くだけでなく、米国の民間人や企業に対するイスラム原理主義のテロ攻撃を激化させるため、コストが大きすぎて実行できない。

④かといって、イラン侵攻からの即時撤退はトランプの敗北で、面目丸つぶれになるため、これもできない。

トランプは、イランの譲歩の期限として自分が勝手に設定した4月7日になって、その日の朝に、イランに対して「今夜一つの文明が滅びる、永遠に復活できない」という「文明破壊」恫喝をしながら、その夜に突如、二週間の一時停戦を宣言しました。私はこれを、八方塞がりの窮地に陥ったトランプの「時間稼ぎ、その場しのぎのための猿芝居」だと指摘しました(恫喝しながら最後はタコっているので、以後、トランプのこの手法を「猿芝居」でなく、「タコ芝居」と呼ぶことにします)。その上で、「イランとの持続的停戦を可能にする合意どころか、かかる合意に向けた交渉のための一時的停戦ですら実現できる保証はありません」と予測しました。

米国のヴァンス副大統領は4月11日(米国東部時間)にパキスタンのイスラマバードに行き、イランとの交渉に臨みましたが、12日時点で交渉はすぐに決裂しました。前回記事が公開されたのは日本時間で4月13日朝(米国東部時間で12日)ですが、記事原稿を書いたのは10日です。交渉決裂の予測は、その予測を含む私の配信記事公開とほぼ同時に実現したことになります。

あまりに早すぎる予測実現は、「交渉のための一時的停戦」なるものが、「その場しのぎのタコ芝居」であることをよく示すと同時に、それが「時間稼ぎ」にすらならない下手な芝居であったことを露呈しています。

トランプ語の「停戦」は「封鎖戦」の別名である――「一時停戦」などなかった

実は「一時的停戦ですら実現できる保証はない」という私の予測も、残念ながら、すぐに実現しました。米国東部時間で13日午前10時(日本時間で同日午後11時)に、トランプは逆封鎖と称して、ホルムズ海峡全面封鎖を開始しました。イラン船だけでなく、ホルムズ海峡通航をイランに許可された他国のタンカーや輸送船も海峡通航を米国が軍事力で阻むというものです。このような「逆封鎖」が戦時国際法上許容されるか否かについては論議の余地があるようですが、それが戦時国際法によって規律されるべき戦闘行為であることは確かです。

したがって、トランプは「二週間の一時停戦」を4月7日に宣言しながら、13日には既に戦闘再開している。イランが海峡封鎖を続けたことへの対抗措置とされていますが、イラン側からすれば、イスラエルのレバノン攻撃激化が一時停戦合意をはじめから破っていた以上、海峡封鎖を止める理由はなかったことになる。一時停戦条件に関して米国・イスラエルはイスラエルのレバノン攻撃は対象外とするのに対し、イランと仲介国のパキスタンはレバノン攻撃停止も合意に含まれていたと主張しています。いずれにせよ、一時停戦合意は最初から破綻しており、一時停戦などそもそもなかったと言うべきです。

一時的停戦条件の理解については、仲介国であるパキスタンの主張に信憑性があると考えるのが常識でしょうから、一時停戦を最初から破綻させた責任は、レバノン攻撃を激化させたイスラエルとそれを止められなかった米国にあると言うべきでしょう。そもそもネタニヤフ首相はイランのイスラム原理主義体制の転覆ないし無力化を狙っています。そのため彼は米国がイランと持続的停戦合意を結ぶことに反対しており、トランプの一時停戦宣言後にレバノン攻撃をさらに激化させたのは、停戦交渉を破綻させるための意図的戦略だったでしょう。

パキスタンはイスラエルの好戦的行動が和平交渉を阻害しており、イランを交渉の席につかせるためには、イスラエルを自制させることが不可欠だと米国に警告していました。パキスタンのシャリフ首相はトランプがネタニヤフを抑えることを期待して仲介の労をとってきたのに、トランプが肝心かなめのイスラエル抑制策をしっかりとらなかったのは、彼の一時停戦宣言が計画性の全くない「その場しのぎのタコ芝居」だったことをよく示しています(注1)。

薄氷の米・イラン停戦、パキスタンが夜通し奔走し合意導く | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
Asif Shahzad Alexander Cornwell Ariba Shahid [イスラマバード/テルアビブ 8日 ロイター] - イランでの戦争を止めるための交渉は崩壊寸前だったが、パキス

トランプは八方塞がり状況の中での苦肉の策として「タコ芝居」を打ちながら、この芝居の台本(実現計画)すらろくに用意せず、逆封鎖などという、芝居そのものを自らぶち壊す行動に走ってしまったわけです。「一時停戦」など当初から破綻し存在しなかったにも拘らず、その「虚構の一時停戦」の期限が満了する直前に、「停戦無期限延長」というさらなるタコ芝居をまた打っています。しかも同時に、逆封鎖の戦闘行為を持続させるという「芝居ぶち壊し宣言」までしながら。

要するに、「一時停戦」も「停戦延長」も、停戦などではなく、海峡封鎖という戦闘行為を双方が続ける「封鎖戦」をこれまでの空爆戦に代えただけです。封鎖戦が米国も含めて世界経済に甚大な打撃を与えることは「一時停戦」で既に明白になっているのに、トランプは無期限に封鎖戦を続けることを「停戦延長」だと宣言している。

トランプは自分が何をしたのか、何をしているのか、何をしようとしているのか分からずに、その場その場をしのごうと狂奔しているようです。彼はいまや、八方塞がりの檻の中で脱出口が見つからず暴れている猛獣のように見えます。以下、この点を敷衍します。

(注1)イスラエルのレバノン攻撃が激化した後で、トランプはネタニヤフに要請して、イスラエルにレバノン政府との停戦合意をさせたが、イランを交渉の場に止めるには遅すぎた。しかも、肝心のヒズボラを蚊帳の外に置いたまま、軍事的に無力で政治的当事者能力のないレバノン政府とイスラエルが停戦合意したところで、停戦の保証にはまったくならない。ヒズボラの攻撃を口実にいつでもネタニヤフがレバノン攻撃を再開できることはイランにとって明白である。実際、4月23日にイスラエルはヒズボラ拠点とみなすレバノン南部地域を空爆した。馘首作戦も含めて、トランプはネタニヤフを抑えられないどころか、ネタニヤフに手玉にとられていることは、イランだけでなく、タッカー・カールソンなど、トランプから離反した米国のMAGA派論客も見抜き、トランプはいまやMIGA(Make Israel Great Again.)だと批判している。