トランプ政権はヴェネズエラ侵攻を「麻薬取締り」と「民主化」で正当化するが、その理屈は国際法と現実の動きに照らして破綻している。「ヴェネズエラ侵攻の何が問題か(1)――目的(独裁者打倒)は手段(侵略)を正当化しない」に続き、その欺瞞を検証する。 ※今回、途中から有料になります。


目次

  • ヴェネズエラ侵攻におけるトランプ政権の「大義名分」
  • 麻薬犯罪訴追論の支離滅裂
  • トランプ政権による「マドゥロなきマドゥロ体制」の温存
  • ヴェネズエラ支配層とトランプ政権との隠された協働?

ヴェネズエラ侵攻におけるトランプ政権の「大義名分」

前回、ヴェネズエラのマドゥロ体制の打倒という「目的」が正しいとしても、米国による軍事侵攻という「手段」は正当化できないことを論じました。今回と次回は、トランプ政権がヴェネズエラ侵攻を正当化する「目的」として掲げている「大義名分」が不当ないし欺瞞的であることを論じます。トランプ政権は、三つの大義名分を挙げています。

第一に、マドゥロ大統領夫妻が、米国に麻薬を密輸するヴェネズエラの犯罪集団の頭目で、米国の司法で彼らを裁くために逮捕する必要があったこと。

第二に、選挙不正で権力の地位に居座るマドゥロ大統領を排除することが、ヴェネズエラに安定した民主体制を確立するために必要であること。

第三に、1999年に政権に就いたチャベス前大統領がヴェネズエラの社会主義化を進める中で、米国石油企業資産を国有化したことへの賠償責任を果たさせるために、米国がヴェネズエラの石油資源の権益を確保することが必要であり、また、インフラ老朽化で大幅に減退したヴェネズエラの産油能力を米国企業の再投資で復活させ、見込まれる巨額の増収を米国がヴェネズエラと分け合うことはヴェネズエラ国民の利益にもなること。

これらの「大義名分」――以下、簡単に、麻薬犯罪訴追論、民主化促進論、石油権益確保分与論と呼びます――は建前としても成り立たないか、実際の政治的動機・政治的帰結が建前とは異なる点で欺瞞的です。

今回は麻薬犯罪訴追論と民主化促進論について検討します。次回は石油権益確保分与論を検討した上で、それが、世界正義論の次の重要問題に対してもつ含意を明らかにしたいと思います。それは、「抑圧的体制の国家をその国民が内発的に改革するのを、国際社会が軍事介入以外の方法で支援するのは、いかにして可能か」という問題です。

麻薬犯罪訴追論の支離滅裂

トランプ政権が、マドゥロ大統領夫妻を逮捕して米国に拉致した軍事侵攻を麻薬犯罪訴追論で正当化しようとするのは、「この軍事作戦は戦争行為ではなく、麻薬犯罪を取り締まる米国の法の執行である」と主張することにより、「国際法違反の侵略だ」とか、「米国議会の承認なしに戦争行為を行うのは違憲だ」という批判をかわすためです。

しかし、自国の法を執行するために物理的強制力を行使できるのは、自国法の管轄領域内、すなわち、自国の領土・領海・領空や施政権下にある地域においてのみであり、自国法に反した国外犯の被疑者が滞在する外国に軍事侵攻して、その被疑者を逮捕する行為は、その外国の主権を侵犯するものであり、国際法違反です。国外犯被疑者の逮捕・訴追は、その者が滞在する外国の政府が同意して逮捕し引き渡すという形で行われなければなりません。

実は、麻薬犯罪取り締まりのためのヴェネズエラへの軍事攻撃は米国法の執行だとする建前を、トランプ政権自体が否定しています。トランプ政権は、麻薬密輸船とみなしたヴェネズエラの民間船舶を証拠も示さずに一方的に爆撃し、100人以上の乗員を殺害していますが、船舶を拿捕して乗員を裁判にかけるという司法手続を無視した違法な爆撃だという批判に対して、麻薬犯罪は「米国民を殺戮する軍事侵攻と同じ」であり、麻薬密輸船爆撃は自衛権行使の軍事行動であるから通常の司法手続は不要だと居直っています。

麻薬犯罪対策を口実にした武力行使を、批判をかわすために、場面によって法の執行と主張したり戦争行為と主張したりするのは、御都合主義的な詭弁で、自家撞着です。もっとも、今般の軍事侵攻によるマドゥロ大統領夫妻逮捕は、「法の執行」としても「戦争行為」としても正当化不能ですが。

さらに言えば、トランプ大統領は2025年11月28日、米国への麻薬密輸関与で45年の拘禁刑に服していたホンジュラスのフアン・エルナンデス前大統領に対し、恩赦を与えると予告し、12月1日に彼を釈放しました。エルナンデス前大統領は2022年2月15日に、500トンのコカイン密輸に関与したとしてホンジュラス警察により逮捕され、バイデン政権の米国に引き渡されて裁判で有罪となり服役していました。トランプがエルナンデスに恩赦を与えたのは、11月30日にホンジュラスで行われた大統領選でエルナンデスと同じ中道右派政党の候補を支援する狙いがあったからだと言われています。

トランプはエルナンデス処罰をバイデン政権による魔女狩りだなどと主張しましたが、彼の処罰は、トランプ政権によるマドゥロ大統領夫妻拉致とは異なり、国際法上も国内法上も正当な司法手続に基づいてなされたものです。さすがにこの恩赦には、共和党の中からも麻薬問題を重視する一部の議員から批判の声が上がりました。ヴェネズエラ侵攻前のこの時点で既に、トランプは麻薬対策を侵攻威嚇の口実にしていたので、このあからさまな二重基準には共和党も当惑しました。

以上の事実は、麻薬対策はトランプにとって本当の関心事項でなく、外国への軍事的・政治的干渉のために利用される便宜的手段にすぎないことをよく示しています。実際、今般のマドゥロ逮捕作戦成功後は、トランプは麻薬犯罪訴追論を「用済み」とみなしたのか、これにはほとんど触れなくなり、石油権益確保分与論を前面に出しています。

トランプ政権による「マドゥロなきマドゥロ体制」の温存

民主化促進論の嘘は、マドゥロ逮捕後のトランプ政権によるヴェネズエラ政界再編工作で明白に露呈しています。トランプは、マドゥロ大統領夫妻をヴェネズエラ政界から除去したものの、2024年大統領選挙で実際に勝利したと米国もみなす野党候補エドムンド・ゴンサレス(スペイン亡命中)や、野党指導者でノーベル平和賞を受賞したマリア・コリナ・マチャド(国外潜伏中)への政権移譲の圧力をかけるどころか、彼ら(特にマチャド)を適任ではないとして斥け、マチャドによってマドゥロの圧政の共犯者と指弾されている副大統領デルシー・ロドリゲスを暫定政府の大統領に就任させました。