「立民滅んで、自民栄える」――令和八年政治劇の衝撃

2月3日、衆院総選挙の5日前に配信した記事「高市首相は『国王大権』を簒奪している」の最後に、解散権を濫用する高市政権に対して、「やり得は許さないよ」というメッセージを投票によって伝えることが有権者にはできると言いました。しかし、日本の有権者たちは高市首相に「やり得」、しかも彼女にとっては笑いが止まらないほどの「ぼろ儲け」をさせてしまいました。

自民党は結党以来最大の316議席、単独で衆議院議席の三分の二以上を獲得しました。公示前の198議席から118議席増です。連立パートナーだった日本維新の会も2議席増やし、両党合わせて352議席になりました。かたや、公明党と立憲民主党が合併して作った最大野党たる中道改革連合は公示前の167議席(172議席あったが今回不出馬の5人を除く)から49議席へと激減。ちょうど自民党の増加分にあたる118議席を失いました。

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6569260?ref=authorshipjp.ghost.io

中道の49議席の中身を見ると旧公明候補が28議席、旧立民候補が21議席です。前回2024年10月の衆院選挙の獲得議席は公明が24議席、立民が148議席でしたから、旧公明は微増、旧立民だけが大負けしたことになります。自民の大儲け=旧立民の大損という等式が成り立ちます。

中道改革連合への合併に際して、比例代表では旧立民が旧公明候補を名簿順位で優先する代わりに、小選挙区では旧立民が候補を立て旧公明の支持基盤たる創価学会がその候補を支持するという取引が行われました。ただ、実際には、創価学会員は「比例は絶対に中道だが、小選挙区では原則的に中道」と指示され、小選挙区で中道(旧立民)以外の政党の候補に投票した者も相当いました。

しかし、中道の最大の敗因は最大野党だった立憲民主党の自壊です。メディアの出口調査によると、前回の衆院選で立憲民主党に投票した人で、今回中道に投票した人は約6割。約4割の支持者を旧立民は失った。これは、比例名簿で優先された旧公明候補の安泰を損ないませんでしたが、小選挙区で争う旧立民候補にとっては致命的打撃でした。

なぜ、「ありえへんこと」があったのか

裏金問題や旧統一教会との癒着で信用失墜した自民党は、2024年10月27日の前回衆院選で少数与党に転落し、2025年7月20日の直近参院選でも議席を13減らして参院支配力も失いました。この自民党が、前回衆院選からわずか1年3カ月後、直近参院選からたった半年後の今回の衆院選挙で、こんな大逆転ができるというのは、吉本新喜劇風に「ありえへん、ありえへん」と言いたくなる現象です。「ありえへん」ことがあった原因として、色々言われていますが、特に次の二点が強調されています。

第一は、高市首相の戦略的成功。彼女は、突っ込まれやすい具体的な政策論には立ち入らず、選挙期間中一度しかなかったテレビでの党首討論も,各党の党首の中でただ一人キャンセルした。他方で、SNSを駆使して「はっきりものを言う日本初の女性首相」という「キャラ立ち」するイメージを強化する演出に努めた。

英紙タイムズにより、この手法は「選挙に勝つ方法:はっきり話せ、しかし何も言うな」と揶揄されたが、功を奏した。選挙を政党の政策競争の場ではなく、「私を選ぶのか、旧立民・旧公明の指導者たる野田や斉藤のようなオジサンを選ぶのか」という個人の人気投票の場に転換して、「さなえ推し」や「サナ活」のブームを巻き起こすことに成功した。

第二は、立憲民主党の戦略的失敗。立憲民主は、自公連立から離脱した公明党の支持基盤たる創価学会の組織票・運動力を取り込もうとして、公明党と合併して中道改革連合という新党を立ち上げたが、にわか作りで、実効的な選挙対策に不可欠な党員組織の統合調整ができなかった。政策調整も、安保法制や原発問題等で公明が与した自公連立政権の立場を立憲民主がほぼ丸呑みする形で行われ、これが立憲民主支持者の離反を招いた。経済政策も、消費税減税・物価対策が中心で、日本の競争力を再生させる抜本的な対策を提示できなかった。

要するに、旧立民は「中道」の看板で穏健保守層にアピールしようとしたが、自らが合流した新党を従来の自公政権の立場から明確に差別化する代替的政策構想を提示できず、高市首相が、中身は不明確ながら「何か変えてくれそう」というイメージを広めたのに対し、それに対抗できる刷新的イメージを創出できなかった。

「政治的火元」はどこにあるのか

第一の点も、第二の点も、その通りでしょう。ただ、次のことを指摘したいと思います。まず、両者は無関係ではなく、高市首相の戦略的成功は、立憲民主の戦略的失敗のおかげだということです。高市首相が具体的政策論に立ち入らず、党首討論からも逃避したにも拘らず、イメージ戦略で有権者に強くアピールできたのは、上記のように最大野党たる中道と自民党との政策的対比が曖昧なため、有権者の関心を政策論争に惹きつけられなかったからです(注1)。

さらに重要な問題があります。たしかに立民の戦略的失敗は立民自身の責任ではあります。中道の共同代表で旧立民の代表だった野田佳彦は、自らに「万死に値する責任がある」と認めています。しかし、このような戦略的失敗に立民を追い込んだ大きな原因、立民を「焼滅」させた「政治的大火」の「火元」が高市首相の抜き打ち解散にあることを忘れてはいけません。

前回総選挙からまだ1年3カ月という時点での抜き打ち解散は国会慣行に反し、野党にとっては寝耳に水。しかも、次年度予算の本年度内成立を図る通常国会冒頭で解散がなされたが、立民は予算委員会の委員長(枝野幸男)を出しており、予算委員会での論戦を活性化させると同時に予算成立を調整するための準備に傾注していた。立民にとってはこの解散は背面からの奇襲攻撃です。

さらに高市解散は野党にとって想定外の時点でなされたという点で不当なだけでなく、解散後から投票までの期間が戦後最短でわずか16日しかなく、野党に選挙準備期間をほとんど与えないという点でも不当です。こんな状況で、自民・維新連立政権に対抗して政権交代を実現できるような野党勢力の再編を行うことはきわめて困難で、「不可能な任務(Mission: Impossible )」と言っていい。

旧立民と旧公明が合併して中道改革連合という新党をにわか作りしたのは、結果的には失敗でした。しかし、高市解散の不意打ちに対して、きわめて限られた時間の中で、最大野党だった立民が、野党勢力再編により政権交代を目指して対抗する戦略としてとれる選択肢も限られていた。情勢分析を十分する暇もなく、先が見えない。こんな状況の中で、立民が公明と合併する新党結成を選んだことは、後知恵では批判できたとしても、その時点での政治的選択としては全くの愚策だと非難できないと私は思います.。

非難されなければならないのは、野党を混乱させドタバタで対応せざるを得ないような状況を党利党略で創出した高市首相の解散権濫用にあります。

今回の選挙の教訓として我々が考えなければならないのは、与党政権を「やり得」させ、その権力温存を容易化する解散権濫用をいかにして正すかという問題です。これは前回の配信記事で提起した問題の更なる考察に繋がります。既に話が長くなったので、続きは次回にします。

(注1)中道以外の野党も、経済政策に関しては軒並み消費税軽減・物価高対策を唱え、自民党との差別化が十分できていなかった。この点、新進の政党「チームみらい」が、消費税減税は斥け、AI等の科学技術を駆使した行政組織改革と経済競争力強化を図る明確で具体的な日本改革構想を打ち出して支持され、議席のなかった衆院で新たに11議席も獲得したことは注目に値する。自己を差別化する代替的政策構想を提示したチームみらいの躍進は、政策論争の低調の責任が他の野党にもあることを逆に証示している。