今年は正月早々のヴェネズエラ侵攻、2月末のイラン侵攻と、次々と世界を揺るがす事件が続き、私もこのニュースレターだけでなく、様々な媒体で発信し続け、隠居とは無縁な「活動的生活(vita activa)」を送っています。特に、4月以降は「多重執筆債務」に追われ、「獅子吼の正義」への配信回数も若干減少気味ですが、その分、1回の配信記事の内容は拡充しているつもりです。しかし、配信回数が減ると、「井上は寝込んでいるのか? 生きているだろうな?」と心配してくださる方々もいらっしゃるようなので、この場を借りて、近況報告代わりの宣伝をさせていただきます。


目次

  • 2026年1月から現在までの言論活動記録
  • 目下進行中・準備中の仕事
  • 論文「戦争と憲法」に因んで

2026年1月から現在までの言論活動記録

 

〔論文〕

①「戦争と憲法――イラン侵攻に見る米国と日本の憲政の歪み」『法と哲学』12号(2026年6月)、1‐41頁

第12号。特集:男女共同参画大学―選抜の正義を問う/〈巻頭言〉戦争と憲法―イラン侵攻に見る米国と日本の憲政の歪み 井上 達夫 責任編集・著

 

〔新聞・雑誌での論評・対談等〕

②「強国間で『悪のなれあい』――正義実現、国連の修復でしか」『朝日新聞』2026年1月1日13判S、13面 ロング・ヴァージョンは朝日新聞デジタル版で配信

■法哲学者・井上達夫さんに聞く 世界のたがが外れつつある。 2度の世界大戦を経て国際社会が築いてきた規範や秩序を、大国が公然と蹂躙(じゅうりん)し、自国中心主義を振り回している。 「法の支配」は「力の…

 

③「『高市改憲』の真相」『プレジデント・オンライン』2026年3月11日公開:
前編「東大名誉教授『高市首相のやり方は姑息だ』――タカ派のはずが『憲法9条改正』から逃げ回るズルさの正体」 

2月の衆院選で与党が憲法改正発議に必要な3分の2以上の議席を確保したことで、憲法改正の可能性が取り沙汰されている。高市政権は本当に憲法を改正するのだろうか。東大名誉教授の井上達夫さんは「高市首相は選挙で憲法改正を訴えず逃げ回っていた。選挙を意識した姑息なやり方だ」という――。

 

後編「『反政府デモの鎮圧』に『基本的人権の停止』――高市ブログから発掘された『憲法9条改正私案』のヤバい中身」 

高市首相の公式サイト上から削除されたいわゆる「高市ブログ」には、かつて雑誌に発表された首相独自の憲法改正私案も掲載されていた。東大名誉教授の井上達夫さんは「高市私案では軍隊による反政府デモの弾圧や、緊急時における基本的人権の停止が可能になっている点が危惧される」という――。

 

④「9条削除し、戦力統制規範を」『北海道新聞』2026年4月15日、6面

日本国憲法で戦争放棄や戦力不保持を定める9条を巡り、自民党は現行の9条に「自衛隊を明記」した「9条の2」を加える改憲案を掲げる。自民は先の衆院選で圧勝。衆院で改憲発議に必要な3分の2を超える議席を手に...

 

⑤「『ホルムズ海峡への自衛隊派遣』の真実」『プレジデント・オンライン』2026年4月24日公開:
前編「『高市首相は9条を盾に自衛隊派遣を断った』はウソ」

3月の日米首脳会談において、高市首相は憲法9条を盾に自衛隊の派遣を断ったと報じられている。本当にそうだったのだろうか。東大名誉教授の井上達夫さんは「日本は、9条があっても軍事協力はできる安保法制を自ら作ってしまったため、そのような説明は不可能。メディアは事実を捻じ曲げて報道している」という――。

後編「トランプに媚びるだけの高市早苗に首相の資格はない」

イラン攻撃が長期化する中、エネルギー自給率が低い日本は苦境に立たされている。高市首相に危機の舵取り役は務まるのか。東大名誉教授の井上達夫さんは「選挙中だけでなく、選挙で圧勝した後も「人気が第一」のイメージ操作ばかりで、肝心の問題からは逃げ続けている。そんな彼女に首相の資格はない」という――。

 

⑥「暴走する大国を止められるのか――国際法と正義の危機に求められる“結束”」『中央公論』2026年5月号、88‐96頁

 

 

⑦「暴政に歯止めをかける法の支配――米国独立250周年記念を迎えるにあたり」(渡辺靖氏との対談)『週刊読書人』2026年6月26日、1-3面

【特集】対談=井上 達夫 × 渡辺 靖 <暴政に歯止めをかける法の支配>米国独立250周年を迎えるにあたり 【本紙イントロより】  1月初頭のベネズエラ攻撃、2月末のイラン攻撃。第二次トランプ政権にによる国際秩序を揺るがす行動が相次ぐなか、

目下進行中・準備中の仕事

(ⅰ)『増補 世界正義論』(ちくま学芸文庫版):2012年に〈筑摩選書〉の一巻として刊行された『世界正義論』、反響が高く増刷を重ねましたが、在庫切れしたので、この度、〈ちくま学芸文庫〉から装いを変えて再刊することになりました。再刊にあたって、既に批評も出ている底本の内容については、形式的な誤字誤記の修正にとどめて「後知恵」で実質を変えることなく再録し、ウクライナ戦争以降の世界情勢の激変を踏まえた実質的な補足は、巻末に「付説」として掲載することにしました。付説は書下ろしの部分と旧稿改訂再編部分を含みますが、目下、この付説の執筆に着手しています。

(ⅱ)「差異と平等――違いを認め合って共生するなんて、本当にできるのか」:2024年6月14日にこのテーマで名城大学法学会講演会において講演し、その内容を論文化して同大学紀要に掲載することになっていましたが、諸事繁忙で先送りさせていただきました。遅ればせながら、いま論文化作業を進め、校正ゲラを待つ段階です。

(ⅲ)『法哲学講義』(仮題):東京大学法学部における私の現役時代最終年度の法哲学の講義(4単位)を旧知の有斐閣編集者の方がすべて聴講・録音してくださいました。後に、これを文字通りの講義スタイルで活字化するという光栄至極な企画が有斐閣より提示され、ありがたく承諾させていただきました。この度、担当編集者から、録音テープ起こしのデータを文章整理した草稿が届けられたので、これを校訂する作業が大きな宿題として控えています。他の喫緊の執筆債務履行後に着手するつもりです。

(ⅳ)その他にも、2025年9月に熊本県立大学で行ったウクライナ戦争とガザ戦争に関する講演の論文化と刊行など、先延べさせていただいている仕事がありますが、one thing at a timeで、遅れ馳せでも少しずつ宿題を完了していくつもりです。関係方面の方々には申し訳ないのですが、御寛恕を願うばかりです。

論文「戦争と憲法」に因んで

上記の「言論活動記録」を見れば分かると思いますが、雑誌で公表した論考には、このニュースレターで頭出ししたコメントを膨らませたものもあります。①の論文は学術研究雑誌『法と哲学』12号に掲載した40頁にわたる論説で、このニュースレターの3月から5月にかけて配信したいくつかの記事の内容を拡充発展させています。

これが示すように、「獅子吼の正義」の配信記事は、私にとっては「法哲学者の余業」などではなく、私の法哲学的探究の最前線であり「本業」そのものです。「井上達夫の法哲学塾」という副題を付していますが、学習塾の真似事をしているわけではありません。現役時代から私は大学での講義で現在進行形の思考を示し、それを著作化してゆくという仕方で研究と講義を融合させてきました。この「法哲学塾」も私の現在進行形の法哲学的探究の現場なのです。

①が掲載された『法と哲学』12号は学術雑誌ですが、書店・アマゾン等で一般にも販売されています。責任編集者を私が務めさせていただいているので、本誌について少し宣伝させてください。年1回刊行で、定価は分厚さによりますが、約270頁の本号は税別で4200円です。高いと思われるかもしれませんが、医学関係などの専門雑誌と比べたら、はるかに低廉で、内容も純学理的論文だけでなく、その時々の政治問題・社会問題を法と哲学の観点から検討するという論説を多く含みます。因みに12号について紹介すると、上記拙稿は巻頭言ですが、特集企画は「男女共同参画大学――選抜の正義を問う」で、この問題に関する法哲学者・法社会学者・政治学者の三本の論説を掲載しています。図書館で借りられるなら、借りて読んでいただければ幸いです。