高市首相が訪米し、中東情勢に関しトランプと会談して帰国しました。イラン侵攻への日本の協力に関し、高市首相は、「自衛隊派遣には憲法9条の制約がある」とトランプに伝え、「トランプ氏は日本の説明に一定の理解を示した」と、朝日新聞は本年3月23日(月)付けの紙面の第一面で報道しています。これに沿って、メディアでは「憲法9条が米国のイラン侵攻軍事協力要請を抑えるカードとして効いている。9条があってよかった」などという9条礼賛言説が台頭しています。前2回の配信(3月10日、21日)で米国の嘘を暴きましたが、今回はこの「憲法9条の制約」論という日本の嘘を暴きます。 ※今回途中から有料記事になります。


目次

  • 法理の検証:「9条があってよかった」どころか、9条が日本を無法な軍事国家にしている
  • 事実の検証:米国の圧力に対し「憲法9条が効いている」というのは本当か?
  • 日本は法律上、米国に軍事協力できるし、事実として既にしてしまっている

法理の検証:「9条があってよかった」どころか、9条が日本を無法な軍事国家にしている

上記の朝日新聞が出た同じ日に、テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」で、レギュラー・コメンテータであるテレビ朝日報道局員の玉川徹が「9条は死文化されたなどと言われているが、[トランプとの交渉で]9条が効いているじゃないか」と言い、憲法9条が日本への米国の軍事協力要請圧力に対する日本の歯止めカードとして有効に機能しているかのように語りました。月曜レギュラー出演の弁護士、猿田佐世もこれに同調し、「9条があってよかった」と言っています。実はこの二人、高市訪米前の同番組でも、「9条の制約があるから、軍事協力に関し日本には法律上できないことがある」というロジックで日本側がトランプに対応する方針だという報道を受けて、「9条があってよかった」のデュエットをやっています。他のニュース番組でも出演者が似たような発言をするのを聞きました。

私は長年、「憲法9条があるから日本の自衛隊は法的に厳格に統制されている」というのは真っ赤な嘘で、逆に、憲法9条があるから、自衛隊は憲法と法律によって統制されない危険な軍事力になっていることを指摘してきました(拙著『立憲主義という企て』東京大学出版会、2019年、第4章、『ウクライナ戦争と向き合う――プーチンという名の「悪夢」の実相と教訓』信山社、2022年、第3章など参照)。詳細は拙著・拙稿に委ねますが、基本的問題点は以下の通りです。

戦力は保有せず行使もしないという建前を掲げた憲法9条(特に2項)があるため、日本は自衛隊という世界有数の武装組織を保有しているにも拘らず、戦力統制規範――国際法の開戦法規(侵略禁止など)や交戦法規(民間人・民間施設無差別攻撃禁止など)に反する武力行使の濫用を実効的に抑止するために戦力の組織編制・発動手続・濫用処罰を厳格に規定する規範――を日本国憲法は含み得ず、そのため、戦力統制規範を具体化する国内法体系も日本には欠損している。憲法が9条2項で戦力保有や交戦権行使を明示的に否定しながら、それを統制する規範を定めるのは論理的矛盾で、不可能なのです。

憲法9条は“抑止”ではなく“無統制”を生む

歴代保守政権がこの事態を放置してきただけでなく、いまや「護憲派」も、解釈改憲や違憲状態政治的容認論の詭弁を振り回して、こんな危険な自衛隊の防衛出動を「個別的自衛権の枠内ならOK」と主張している。首相の防衛出動命令権の濫用や交戦法規違反の武力行使を実効的に抑止する戦力統制規範が存在しない(9条により存在できない)にも拘わらず、です(「護憲派」は詐称で、彼らも憲法破壊勢力です)。しかも、「個別的自衛権の枠」ですら、集団的自衛権行使を解禁した第二次安倍政権下の安保関連法制によって取り払われている。

憲法9条(特に2項)を明文改正して自衛戦力の保有と行使を明認した上で、その濫用を抑止する戦力統制規範を明定する憲法改正は、日本の安全保障体制確立のために最低限必要なだけでなく、自国の軍事力を無法状態に置かないという国際社会に対する責務です。日本は警察予備隊・保安隊を経て自衛隊を1954年に設立し再軍備して以降、70年以上に亘り、「自衛隊は軍隊でない」という嘘の下に、立憲民主主義国家としてのこの最低限の責務をサボり続けている。

憲法9条問題のこの核心を、玉川徹のような「一知半解」的発言の多い記者が理解していない(理解する気がない)のはともかく、彼よりは賢明だろうと期待していた弁護士の猿田佐世までが上記のような体たらくなのには、立腹を超えて悲しくなりました。しかも、彼らは9条問題の法理を捻じ曲げているだけでなく、「事実的証拠に基づいた(evidence-based)解説をする」という報道倫理のイロハを無視して、自分たちの政治的願望を事実であるかのように語っているのです。後者の点を次に明らかにします。

事実の検証:米国の圧力に対し「憲法9条が効いている」というのは本当か?

高市首相は、「[イラン侵攻への協力に関し]日本には法律上できることと、できないことがあり、法律上できないことはできないと、米国にもはっきり申し上げる」と、訪米前の国会答弁で言っていました。「法律上できないことは法律上できない」という言明は無意味な同語反復で、大事なのは、「具体的に、法律上、何ができて、何ができないと高市政権は考えているのか」です。しかし、高市首相は日本での国会答弁でこの肝心の点を明確にしなかった――明確にさせられなかった野党も情けない!――だけでなく、トランプとの会談でも、何ができないかを具体的に示さず、日本は軍事協力できないなどと言ってはいない。上記の3月23日付け朝日新聞は、会談での日本の説明に関し、茂木外相の証言を次のように引用しています。

 会談同席者の茂木氏は22日のフジテレビの番組で、「具体的にこれはできる、できないと話はしていない」としつつ、「日本には法律的にできることと、できないことがあることをきちんと説明し、トランプ氏もうなずいた」と明かした。
 首相の説明は「憲法9条があり、その下で様々な事態認定がある。そういったことも含めて日本には制約がある」との趣旨だったという。

現在の日本の政治家トークでは、具体的な対策を示さずに「しっかりと対応します」「緊張感をもって臨みます」などという主観的感情表出で逃げる発言が多いが、茂木発言もその典型例です。「具体的にこれはできる、できないと話はしていない」のに「きちんと説明し」たとは、ふざけるなと言いたい。「日本には法律的にできることとできないことがある」というのは当たり前の無内容な発言であり、しかも日本だけではなく、およそ法治国家を名乗る国ではどこでもそうであって、日本の特殊事情などではない。

それにトランプが「うなずいていた」と茂木は言いますが、トランプは法治国家なら米国についてさえ言える当然の建前を高市が言っただけなのでうなずいたのであり、トランプが「日本は憲法9条と法律により、米国のイラン侵攻に軍事協力できない」という主張――以下、「軍事協力法的不可能命題」と呼びます――を理解した、況や、納得したなどとは到底言えません。そんな言質などトランプは与えていないし、日本側が軍事協力できないとはっきり言っていないのだから、言質を与えようもない。後述するように、首相説明の「趣旨」として茂木が言っていることも、日本の軍事協力の可能性を否定するどころか肯定しているのです。

百歩譲って、トランプが仮に「軍事協力法的不可能命題」を高市首相が主張したものと理解したと想定しても、自国の憲法や法律すら無視して大統領権限を濫用しているトランプなら、「だからどうだというのだ(So what?)」と、いつでも開き直れるでしょう。今回の会談で、トランプが自衛隊出動をプッシュしなかったのは、日本から大規模な経済協力の約束をまず取り付けるのが主眼だったからであり、今後のイラン情勢の展開によっては、「経済協力の後は軍事協力も」と畳みかけてくる可能性は十分あり、そんなことはしないという約束をトランプがしたわけではありません。

高市・トランプ会談がこんなお粗末で危うい内容であるにもかかわらず、朝日新聞が高市首相や茂木外相に突っ込んだ追跡取材もせず、その第一面のヘッドラインに、「海峡派遣『憲法9条の制約』――首相、日米会談で伝達」という文句をでかでかと掲げたのは、まるで、「高市首相が日本は憲法9条の制約があるため、ホルムズ海峡に自衛隊を派遣することはできないとトランプとの会談で伝達した」かのような印象を読者に与えるもので、ほとんどフェイクニュースに近い印象操作と言えるでしょう。

朝日新聞は「憲法9条の制約は効果がある」という「護憲派シンパ」的な政治的立場に沿った願望思考にいまだ毒されており、事実を客観的に検証して伝えるという報道機関としての責任を放棄したと言わざるを得ません。これに掉さして「9条があってよかった」と合唱している上記のコメンテータたちも然りです。

この9条礼賛言説が孕むより深刻な事実の歪曲があります。日本が法律上、米国のイラン侵攻に軍事協力できるだけでなく、既に軍事協力してしまっているという事実を隠蔽しているのです。以下、この点を説明します。