前回の記事で、2018年にマイケル・サンデルの中国哲学に関する著書をめぐる国際シンポジウムに参加した経験について書きました。今回は、そのときの「ちょっと面白いエピソード」を紹介します。

このシンポジウムは、中国本土、香港、韓国から各1名、そして日本から私という、計4人のアジア系研究者がコメンテータを務め、サンデル自身が応答するという構成でした。なお、前回記事の最初の配信ではこのシンポジウム動画は英語の字幕しか見られないと書きましたが、これは誤りで、画面右下に表示されているボタンで、設定→字幕→自動翻訳→日本語選択と進むと、日本語字幕が出てきます。現在の掲載記事ではこの点修正されていますが、最初の配信記事をご覧になられた方々にはお詫び申し上げます。


目次

  • ハーヴァード・スクエアでのランチ
  • 「真剣な冗談」という抗議の形

ハーヴァード・スクエアでのランチ

シンポジウムのパネリストによる顔合わせと打ち合わせを、当日の昼、ハーヴァード・スクエアにあるイタリアン・レストランでランチを取りながらしました。米国のレストランでは一皿の料理の量が多すぎることがあるので、ウエイターが注文をとりにきたとき、私は「もう年なので、たくさんは食べられないんだけれど、一皿の量は多いんですか(At my age I can’t eat so much. Do you serve the dishes in big portions?)」と訊きました。ウエイターは「そんなに多くはないですよ(Not so big.)」と応えましたが、このやりとりを聞いていたサンデルがportionという言葉に反応して、笑いながら次のように言いました。

「タツオ、君の同僚だと思うが、東京大学の国際法学者で、前に私も参加したハーヴァードでの国際シンポジウムに日本から参加して、会議後のディナーで出た料理のportionが多すぎると言って抗議した人がいる。彼は欧米中心主義を厳しく批判する発言を会議でしていたが、このportionの多さは欧米人基準で、日本も含むアジアからの参加者が多く参加する国際シンポジウムのディナーで、こんなportionの料理を出すのは、これこそ、欧米中心主義の表れだと批判していた。」

その国際シンポジウムのことを私は知りませんでしたが、私の脳裏に浮かんだのは、現在の国際法に残存する欧米中心主義の克服を生涯の課題としていた大沼保昭(注1)です。サンデルに「それは大沼教授ではないか」と確認したら、「そう、オオヌマという名だった」と彼は答えました。私が、「大沼教授は、冗談で言ったのでは?」と訊いたら、「いや、彼は真剣だった」とサンデル。

(注1)日本の代表的な国際法学者の一人(1946年生、2018年歿)。戦争責任の研究から出発して、日本の戦争責任を率直に認める一方、自らの戦争責任を隠蔽する欧米戦勝国の欺瞞も厳しく批判した。近代国際法は、欧米の植民地支配を通じて欧米の地域秩序がグローバル化される形で歴史的に生成したことを指摘し、国際法を、欧米中心主義を超えた「文際法」=間文明的秩序(inter-civilizational order)へと発展させる必要を説いた。「象牙の塔」に閉じこもる研究者の姿勢を批判し、在日韓国朝鮮人差別問題、慰安婦問題、サハリン棄民問題など、現実政治の問題をめぐる実践的な言論を展開し、問題解決を図る市民運動にも積極的に関わった。東大法学部で彼が助教授、私が助手だった頃から、彼が亡くなる直前まで、様々な形で彼とは議論を交わし、研究者としても人間としても多くを彼から学んだ。私にとっては「厳しい兄」のような存在であった。

「真剣な冗談」という抗議の形

「黒い冗談(a black joke)」ならぬ「真剣な冗談(a serious joke)」というものがあります。この言葉は私の造語ですが、それが表す言動はよく見られます。冗談めかした言葉で、真剣な問題提起をすることです。